3月11日、月曜日は、またしても武蔵小山「月光密造舎」でのイベント「戯曲喫茶」に参加した。
 最初、第1幕、第2幕をラジオドラマ仕立てで録音したものを放送しながら茶菓を楽しみ、第3幕のみを2人の俳優さんが喫茶店のカウンターの中で上演するという趣向だ。
 昔は(今も?)アングラ劇団は喫茶店で上演したりしていたそうだから、その雰囲気が味わえてうれしい。

 演目はイプセン「人形の家」ということで、ぼくは事前にKindleで青空文庫、島村抱月訳のバージョンを予習していた。

 青空文庫の人形の家には1箇所致命的な誤植があって、そこをどう読むのか楽しみにしていた。
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 ちなみに、同じ抱月訳は国立国会図書館デジタルコレクションにも所蔵されていて、そちらは間違っていなかった。
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 会場に行こうとすると生憎の雨で、お客さんは少なかったがそのぶんゆっくり楽しめた。最初に店からマカロンが振る舞われた。劇中では何回もマカロンが出てくる。もっとも大正時代の抱月訳では「パン菓子」となっている。上演された底本は、新潮文庫および岩波文庫の、より新しい翻訳を使っていたようだ。

 まず第1幕の録音を流しながら歓談した。主演のノラを紅日さんが、残りほぼ全員を倉垣さんが(リンデン夫人も)やっていて面白い。ノラの悪気はないが奔放なセリフに、客と店主でワイワイつっこみながら聞くのが楽しい。もっともノラの稚気は後半で大きな意味を持つのだが。音響や音楽なども凝っていて良かった。

 第1幕が意外に長くなったということで、第2幕はあらすじを倉垣さんがかいつまんで説明し、第3幕を俳優2人が演じることになった。台本を持っての半分朗読、半分演劇だが、ただやっては面白くないので一方が岩波文庫、一方が新潮文庫を読むということになった。これは紅日さんはその時まで知らされていなかった趣向のようで、若干ウロタエていたようだが、別に問題なく進行した。

 ぼくは前日抱月版でこの場面の前までで読むのを打ち切っていたのだが、ここからあっと驚く展開で、ノラの稚気も、亭主の溺愛ぶりも、すべてこの終幕によってその裏側が暴かれる。ぼくは抱月版を予習して、ラジオドラマ部分も談笑しながら聞いていて心理的に余裕があるつもりでいたので、余計衝撃を受けた。こういう話だったのかー。

 喫茶店という狭い空間の中で、俳優さん2人の演技を間近で見て、迫力に圧倒されると共に、前後に戯曲の内容や、演技プランなどをお話する機会があったので、より戯曲の内容が理解できた。これは、楽しい! お客さん少なかったけど、大成功だったんじゃないだろうか。機会があった人はまた行くといいだろう。
 「月光密造舎」としての催事は今日(3月22日火曜日)も行われて、今日は澁澤龍彦の朗読会だそうだ。

月光密造舎特別催事 朗讀サロン【天球儀の會】澁澤幻想譚|倉垣ノ記

 さて人形の家に戻るが、島村抱月といえば松井須磨子と共に芸術座を結成した人で、抱月、須磨子、そして当時の新劇運動や女性解放運動についての芝居を、ぼくは桐朋学園の卒業公演で見ている。

イジハピ! : 【第541回】桐朋学園の卒業公演を見て来た

 「人形の家」は芸術座旗揚げ前の松井須磨子の当たり役だったということもあり、また内容は女性解放運動に繋がる話である。ということで、頭の中でいろいろ繋がって納得した。
 紅日毬子さんのノラははまり役で、ノラ自らが給仕してくれるマカロンを食べながら戯曲を味わう時間は、とても楽しかった。