神奈川県の新丸子というところに15年も住んでいる。そこそこ気に入っている。

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 渋谷にも横浜にも電車で30分もしないで行ける。直線距離は20キロで、どちらにも歩いて行ったことがある。
 となりの武蔵小杉が最近妙にイメージが良くなっている。タワーマンションが林立しているが、まだ商業地域としてはそこまで便利というわけではない。家電量販店がないし、映画館もない。(遠い昔は小さなのがあったんだけど、なくなってしまった。)劇場もないしライブハウスもない。結局何かしようと思ったら東京か横浜に出ないといけないし、買い物はそのときに済ませてしまうから、武蔵小杉が脚光を浴びているというのがどうも分からない。まあ今後に期待だ。
 ぼくが住んでいるのはその隣の新丸子だが、ここがまあ店がない。
 だからやたら人がごった返すということもないのだろう。住むには静かで良い街だ。もっとも、最近近所の大学病院がつぶされて巨大ビルになるという噂があり、そうなるとどうなるか分からない。近所の老朽化したアパートがやたらと壊されて新築になっている。不穏な動きである。

 この新丸子が、以前から、すごく不思議なことがあった。
 個人商店の業態がやたら偏っているのである。具体的に言うと、美容室と、クリーニング屋と、不動産屋が多い。
 ぼく個人はクリーニング屋なんかめったに行かない。スーツとかコートとか着ないたちだからだ。普段はコットンセーターとか、ジーンズとか、洗濯機で洗えるものばかり着ている。最近はフリースとかマイクロダウンとかユニクロ的なものがどんどん進化しているので、ますます行かなくなった。
 まあぼくの着るものが貧しいというだけの話だが、これは世間的にもトレンドだと思う。
 しかるに、びっくりするほどクリーニング屋が林立している。果物屋や本屋が潰れて、何になるのかなあと思っていたら、クリーニング屋になっている。でも逆に、クリーニング屋に人が詰めかけて行列になっているという眺めも、見たことがないのである。不思議だ。

 不動産屋も多い。新しい店が増えている。以前ちょっとアパートを探したことがあって、数件当たってすぐに引っ越しじたいやめてしまったのだが、その時に知ったのは、最近の不動産屋は全部ネット化していて、どこの店に行ってもどの物件も扱っているということだ。だから、こっちの都合でいうと、なぜこんなに店舗の数があるのか不思議になる。
 しかるに、実店舗はたくさんあって、しかも増えている。「こんなところに…」という隙間を塗って不動産屋が入っている。まあ管理の仕事などもあるだろうから、お客さんが詰めかけていなくても仕事はあるのかもしれないが、そんなにどんどん増えるほどお客さんがいるのだろうか。不思議。

 もっと不思議なのが美容室で、これが、多い!
 通りの向こうにシャレた店がある。ああ、新しいカフェでも出来たのかなあと思って、浮かれた気持ちで行ってみると、美容室である。ガッカリだ。
 まあそれはこっちの勝手な思い込みだったのだが、それこそ美容室の隣に美容室が出来る、という勢いで増えている。
 激安店もあるが、カット5千円とか、カラー9千円とか、強気な価格設定の店の方が多い。
 どの店も空いている。混んでいる時間に出歩かないだけかもしれないが、あんなに空いていて商売成り立つのかなあ、と思う。

 あと、ドラッグストアも多い。調剤薬局が多いのは大病院が多いからしょうがないと思うが、セイジョーとかナカヤマとかああいう店が近接している。あと歯医者も多い。歯医者は多いよ!逆に、ないのが、喫茶店や飲食店、衣料店、そして、本屋である。
 駅に向かう途中で何十件も美容室と、クリーニング屋と、不動産屋と歯医者の前を通ると不思議な気持ちになる。こんなに同業他社が林立しているところに、新規参入するお店というのはどういう感じなんだろうか。でも勝算があるから建つんだろう。
 商売、経済というのは、なかなか素人には思い及ばないことがあるんだろうなあと、つくづく思う。