いぜんから似たような趣旨のCMは気になっていたのだが、このCMはさすがにひどいなと思った。

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「毒舌」芸人の有吉弘行さんが、風邪を押して現場から現場にマスクをして車で移動している。
絶対に休めない人は、風邪薬を飲め! というのである。

病気になったら休んだほうがいいと思う。
「病気で休めない」というのは、「寝てない」、「食べてない」、「家に帰ってない」と一緒で、いわゆる昭和のブラック自慢だ。
自慢にならない。

「自分の代わりがいない」と言うのだろうが、そういうのは普段から仕事をシステム化し、マニュアル化して、誰でも抜けが埋められるようにしておくものである。
「その穴埋めの人に仕事を奪われる」と言うのであれば、それはたった一回代わってもらったぐらいで奪われてしまうような程度の仕事しかしていなかったのである。

まして、風邪である。
伝染病だ。
「俺は休めないんだ」と言いながら、ウイルスを振りまいている。
仕事で職場に寄与するどころか、危険を振りまいているわけである。
だったら軽症のうちに休むべきだ。

そもそも、風邪薬で風邪が治るものか?
高熱で脳に障害が残るというのでないかぎり、風邪の熱は放置しておいた方がいいそうだ。
高熱でウイルスが死ぬそうである。
無論ふらふらするし、悪くするとぶったおれるから、家で休んで暖かくして寝ている前提だ。
ウイルスを殺す薬というのはインターフェロンとか、タミフルのような薬で、薬局では売っていない。

CMの有吉さんは、本当に休めないのだろうか。
別に「毒舌」芸人の人が一日や二日休んでも、社会には影響がない。
「有吉AKB共和国」の司会が1回ぐらい土田晃之さんになっても、あんまり見る方にインパクトはないと思うのである。
むしろ、現場にいる小嶋陽菜さんやAKBグループのメンバーに風邪が感染する方が影響は甚大だ。
感染は感染を産み、ドームクラスのコンサートに影響するかもしれない。
億単位で損害が発生するのである。
握手会でもやられた日にはパンデミックである。

きのう見た「バクマン。」という映画は、マンガ家のリアルな日常が描かれていて感動したが、要約すると「病気に掛かった人が適切な治療をせずにがんばるのはエライ」という話で、その部分は承服できない。
(原作はこの部分の葛藤がものすごく丹念に描かれていたのだが、結果的にはやはり根性が勝つみたいな話であった)

2001年、貴乃花(光司)は右膝半月板損傷という大怪我をしながら相撲を続け、優勝を飾った。
当時の小泉純一郎首相が「痛みに耐えてよく頑張った」と「感動的」なスピーチをして話題になった。
けっきょく貴乃花は、このケガが原因となって二度と優勝できないまま引退した。

有吉さんや、バクマン。の漫画家コンビや、貴乃花光司さんは、代えがたい人材であるから、無下に休めない、という考えもあるだろう。
でもぼくは、そういう人だから、むしろ休んだほうがいいと思う。
ああいう人が「休めない」、「休まない」、「休まない俺エライ」というメッセージを社会に発信し続け、軽率な総理大臣が称揚した結果、ブラック企業の社長や社員たちが「やっぱり病気になっても休まない方がエライんだ」、「休んだら負けなんだ」と思い込んでしまう。
その結果風邪は蔓延する。

根性主義の人が病気で苦しんでも、ぼくの腹は痛まないから、しょせんヒトゴトだから勝手にやってくれとも思うけど、電車で隣り合わせたサラリーマンが風邪を押して働いていて、風邪薬なんかでむりやり熱を抑えていて歩いているかもしれなく、それはうつったらイヤだから、やはり家で寝ていて欲しい。

テレビのCMというのはメッセージ性が強くて、よく話題になる。
女性が料理すると決めつけているのは差別だとか、そういうのだ。
批判はもっともだと思う。
でも風邪薬のCMはもっと問題だと思う。
篠原涼子さんが「頭痛なんかで止まってられない!」とかイキっている頭痛薬のCMもあった。
頭痛は深刻な病気の前兆かもしれないから検査に行って欲しいと思う。