せんじつ人から、織田作之助という人の小説「夫婦善哉」が面白いよと教えられた。
ふうふよきかなと書いて「めおとぜんざい」という題名で、昔の辛気臭い夫婦の情愛を描いた、昔の東芝日曜劇場みたいなドラマかと思って今まで読まなかった。

Senba-Jiyuuken curry in Japan by OiMax in Yokohama
教えてくれた人によると、NHKで森山未來と言う人が主演していたドラマも良かったと言う。
確か森繁久彌と、沢田研二も演じていた。
それで興味を持って読んだ。
青空文庫に入っていたので、iPhoneで読んだのである。
面白かった!
あっという間に読んでしまった。
Wikipediaを調べると、名作だけあって色々な人によってドラマ化、劇化されているが、藤田まことと中村玉緒が合っていると思う。
中身は触れないが、新鮮に感じたのはテンポの速さである。
どんどん時間が過ぎる。
「時間の経つことの速さ」が主人公のような小説である。
スタンダールに似ているなー、と思ったのだが、作者が影響を受けたと後で知った。
70年の歳月を経て、スタンダールに影響された作者を読んだ読者が、それを読んで感心するのも楽しいことである。
オダサクさんスタンダール好きなんだね! と声を掛けたくなる。
コテコテの大阪を舞台にした小説で、有名な自由軒のカレーをはじめ、今で言う「B級グルメ」がたっぷり出てくる。

それからさらに調べると『続・夫婦善哉』というのもあった。
ごく最近、2007年に遺稿が発見されたそうだ。
へぇー!
やっぱりKindleで『夫婦善哉・完全版』というのがあったので、読んだ。
これがなんと、あっと驚く別府温泉を舞台にした小説である。
ぼくの故郷なのだ。
興味深く読んだが、当時(戦争直前)は別府が、大阪に匹敵する一大歓楽街のように描かれていて、ちょっとくすぐったかった。
別府もぼくが小さい頃はそこそこ羽振りが良かったのだが、昔はもっとすごかったのね。

それから『織田作之助はこれだけ読め!』という110円のセレクションをダウンロードした。
これだけ読めというより、これでもかこれでもかという感じで、作品が詰め込まれている。
寝る前に1時間ずつ、一週間も読んでいるが、まだ15%も読めていない。
常識で考えて、文学部の学生でもないのにこんなに読む必要はない。
でも、面白いので止まらない。

やはり長いほうが面白く、「俗臭」という、「カラマーゾフの兄弟」からイワンとアリョーシャを抜いたような俗物どもが乱舞する群像劇も面白い。
あと、「雨」という自伝的短編を書き伸ばした「青春の逆説」という自伝的長編も読み比べると楽しい。
前者の方が文学的で、後者はゲスいところがいい。
長い時間をバンバン飛ばして書いているのに、一場面しか出てこない人物の職業や、エピソードの地名、所番地などを急に克明に書いているのもうまいなーと思う。
中年期を過ぎて、電子書籍のおかげで、こんな楽しい読書体験ができてハッピーだ。