ぼくは成人病のデパートだ。
糖尿病、高脂血症、睡眠時無呼吸症候群、膝関節炎である。

Ct-scan
これは、バラバラにソロ活動で悪くなっているんじゃなくて、うちの1つ、または2つか3つが残りの1つを助けている(ひどくしている)のだ。
「全体としてはソロなんかやったことないけど、各個人はいつもソロをやっている」(Always solo, Never solo)というウェザー・リポートの演奏と一緒だ。
でもどれも、長年の運動や食事療法の結果小康状態というか、低値安定していた。

持病を持っていると、毎月血液検査をするので(ぼくの場合は2ヶ月に1回)、ちょっとした病変も先生が気になってくれ、普通の人より長生きするような気がする。
一病息災というやつである。
でも、そうでもない気もする。
先々月と今月、糖尿病の指標であるHbA1cが急上昇し、何か思い当たることありませんか、と言われた。

ありまくりである。
自炊を覚えたぼくは、寝付けない夜に一合ごはんを炊いて、マヨネーズ醬油とかで食べていた。
炊きたてはおいしいんだよ。
体重計にもその成果(?)が脈々と出ていたが、やっぱり寝る前の白米は危険である。
わかっちゃいるけどやめられない。
例の導眠剤の健忘効果で、飯を炊いたことを忘れてたりする。
朝起きて台所に洗い物があってびっくりしたりするのである。
よく、酒が危険だとか、ドラッグが危険だと言われるけど、お米もごはんも危険である。
ダメ、ゼッタイ。

そういうことで、医者が「他の指標は悪くなってないのに血糖だけ急に悪いのは、一応すい臓がんを疑うんですよ。何かご親戚にそういう方がいますか」と聞く。
「ご親戚もなにも、2011に親父を膵癌で見送ったばっかりですよ。79でした」
「あー、じゃ、すぐにでもそれはハッキリさせましょう。そうじゃないと糖尿病の方針を決められない」と言われた。
ですよねー。

それで、CTスキャンというのをいきなりやることになった。
膵臓は身体の中央部にあって普通のレントゲンなどでは見えにくい位置にあり、内視鏡も入らない(?)。
CTが一番強力だ。
ぼくが診てもらってる街のクリニックにはCTのマシーンはないので、武蔵溝ノ口にある検査専門の病院に行くことにした。
ここは儲かっているらしく、最近マルイの側に第2院が出来た。
そっちの方がキレイで行きやすいということで、そっちに行くことにした。

スケジュールはどうしますかと言われたので、いつでもいいです(無職だから…)と言うと、今日の夕方はどうですか、朝何か食べましたかと言われる。
朝9時に豆乳と野菜ジュースを朝食代わりに飲みました、というと、じゃあ16時まで絶食してください、ということで予約がまとまった。

それから16時まで絶食。
「絶食!」と決めてしまうと、おなかがなっても「食べないで我慢する」という意外の選択肢がないので、耐えやすい。
これが「ちょっとだけ食べて我慢する」とかになると、とたんに条件が複雑になって結局おなかがパンパンになるまで食べてしまうのである。
人間って不思議だよね。

そうこうしてるうちに15時になったので、乗り付けない南武線に載って検査専門の病院に行った。
ここは古い第1院は膝のMRIを取りに行ったが、新しい第2院は始めてだ。
ちょっと迷ったが、何の事はない、通い慣れたハローワークの近くだった。

病院に入るとお相撲さんがいてびっくりした。
まだ若いので前頭とかだろうか。
膝をMRIに撮りに来た、とナースさんに言っていた。
お相撲さんの膝はさぞかし負担が大きかろう。

続いてぼくの順番になった。
この病院は第1院も第2院も中身は新しくてキレイである。

まずは診察室に通されて若いドクターに問診された。
糖尿量歴、最近のA1cの変遷、手術歴(子供の頃目を手術しただけ)などを聞かれた。
最初にCTスキャンを過去受けたことがあったか、と、聞かれたが、これが思い出せなかった。
例の憩室炎で緊急入院したときに、最初に薄れゆく意識の中で撮ったような気もするし他の試験だったかもしれない。
なにしろ朦朧としていたので思い出せない。
ううん、恥ずかしいことである。

そのあと、造影剤を入れますか入れませんかということで、出来ることはなんでもやりましょうということでやってもらった。
造影剤を入れると、造影剤を入っていくところを3枚取ることで、経時的、立体的に画像が取れるそうだ。

そのとき「造影剤は身体の中に入れるとカーッと熱くなりますが、それはご了承ください」と言われた。
あ! 思い出した!
完全に思い出したのである。
「先生、そのセリフ聞いたことあります。たぶん憩室炎のときCTスキャンも、造影剤もやりました」と言った。
確かに薄れゆく意識の中で、造影剤がカーッと熱くなるのを経験したし、そういや同意書に署名させられたなーと思ったのである。
ということで、一度経験してるから大丈夫ですね、ということになった。

ロッカーに案内され、検査着に着替えさせられる。
私物は全部置いていく。
文庫本一冊持たせてもらったが、結果的にスピーディに検査が終わったから文庫本は必要なかった。

まず前処置室に行く。
中年のナースさんがついてくれる。

最初に水をいっぱい飲む(これが何かナゾ)。
「これ水ですか? H2O?」と聞くと「そうです。H2O」というので、生ぬるい紙コップの水を飲んだ。
これなんだったんだろ。

次に点滴を入れる。
「え?もう造影剤?」と言うと「ううん、その前に予備的に生理食塩水を入れます。これが入ってる間に、造影剤は横から入れます」
へぇー。

そのナースさんはうまくて、この脂肪をまとった太腕の静脈に一発で入れた。
「注射うまいですね。ぼくの静脈、デブだから見えないでしょう」というと「ええ、大丈夫です。ここに1個いいやつがあったから、スッと入りますよ」と言っていた。
1個いいやつがあって良かったな。

点滴を入れながらうすぐらい廊下で順番を待っていたが、結局5分ほどで検査室に案内された。

硬い寝台に横たわって、万歳するように言われる。
万歳した身体の回りを、リング状の機械が通って行く仕組みだ。

問診とは別のドクターが来て「じゃあ造影剤入れまーす」と言う。
たしかに全身カッと熱くなる。
お酒が効いてくるような感じであって、悪い感じではない。
「じゃあ行きまーす」と言って、ナースもドクターも出て行って一人ぼっちになる。

ドクターがマイクから指示を与える。
「内臓は、どうしても呼吸で動いちゃってぶれますので、撮影の瞬間10秒息止めでいきまーす。機械音声にしたがってくださーい」という。
マシーンが動き始め「息をとめてください」という。
マシーンの内側(目の前)に増えていくLEDインジケーターがあり、それが10個付くまで呼吸を止めていればいいのだ。
実によく出来ている。
ランプが全部ついたところで、機械音声が「呼吸をラクにしてください」という。

これが撮影1回分で、これを3回繰り返す。
全然苦しくなかった。
マシーンの中で何らかのメカニズムが回ってる音はするのだが、MRIほどじゃなかった。

ナースが入ってきて「はい終わりでーす」という。
点滴をはずさないので「これ全部落としきるんですか?」というと「いえ、薬を流し終わるまで、もうちょっとだけ落とします」という。
処置室に言って、注射を抜去し、止血を行う。
「じゃあこれでー」

着替えをして、会計を待つ。
お相撲さんが先に会計を済ませた。

ぼくの番だ。
検査代が1万1千円。
送料が650円。
思わぬ出費である。
いや、それぐらい命には変えられないけど、お医者さんのお金って、急に、来るよね。
どれぐらい掛かりますよ、と事前に言ってくれないのである。
ちょうど1万2千円ぐらい持っていたので、すんでのところで間に合った。

帰りがけ、和食屋さんで一人しゃぶしゃぶを食べた。
炭水化物を取らないでおなか一杯にしたほうがいいだろうという判断だ。

ここのお姐さんが美人で愛想がいい。
「あっ、それ、AppleWatchですか、初めてみた」というので、ひと通りデモしてあげる。
ふだんはこんなことしないけど、若い女性と話をするのは楽しいなあ。
お客さんが立てこんできたので名残惜しく別れた。

それからふらふら、雨もよいの夕方の産業道路を家まで歩いた。
高校がある道で、リア充の高校生カップルが恥ずかしそうに歩いている。

曇り空を見上げながら考えた。
膵癌がんになったらどうしよう。
まだ初期だろうから、切ったり抗癌剤、放射能全部やるんだろうなー。
ハゲたらどうなるだろう。
でも俺スキンヘッドは一回やってみたかったから別に苦痛ではない。
問題は末期の場合で、すぐに安楽死して欲しいけど、日本じゃ難しいかなー。
スイスの尊厳死協会に加盟すべきか。。

5日後。
検査結果がかかりつけクリニックに行くまで5日掛かると聞かされていたので、前もって電話していたら、果たして写真はもう出来ているという。
おっとり刀で病院に行く。
診察室に行くと、ぼくの後ろに暇なナースが3人ほどもいる。
ガン告知は最大の個人情報なのに、こんなに衆人環視のもとでやるのか? とちょっと疑惑を感じた。

写真を見せられる。
「これが経時のおなかですねー。これが腎臓、これが肝臓で深澤さんの場合脂肪肝で白くなってますー。ということはここが膵臓。経時的に造影剤が動いてますけど膵臓にはまったく影がありませんね。ということで膵癌の疑いはまったくありません」
ですって!

良かったー。

「じゃあ膵癌の疑いはないと。じゃあなんで血糖値が上がったんでしょうか」と聞くと「それはこっちが聞きたいです。ここ数ヶ月で食生活の変化とかありましたか?」と聞かれたので「特に変わったものは食べてないですけど、寝る前にどんぶり飯を何回か」と言うと「それだ。それだと思いますよ。とりあえず寝る前のどんぶり飯はやめてみてください」ということだった。

別にガンぐらいいつでも掛かると思っていたし、それにしてもただちにガンになる確率は低いと思っていたので、全然気にはしていなかった、つもりではあったが、やはり識閾下で気にしていたらしく、大変気が晴れ晴れした。
病院からの帰り道、木々の葉っぱ一枚いちまいが美しい。
あー病気でなくてよかったなー。

ということで、CTスキャンはたいした苦痛はないが、11000円掛かるという知見がえられた。