日本語1音の名詞を分類する試みをずっとやって来て、引っかかっていたのは、「あ」を飛ばしていたことだ。
「あ」という言葉は、ある。
「阿」という地名の土地が、熊本県上天草市にあるのである。
行けば行ける。
いぜん「津」をレポートしたように、「阿」についてレポートすればよい。
しかし、飛行機で行く距離であり、このブログのために取材旅行をするのは無理があった。

しかし、今回法事のために熊本に帰郷する機会を得て、これは一泊エクストラで止まって「阿」まで旅をして来ようと思った。
「阿」は、普通は「阿村」と言うようだが、熊本県上天草市にある。
最初は、阿村唯一の旅館「渚亭」に止まりたかったが、客室で料理を供する場所であり、繁忙期であるので、一人客はお断りということだった。
どうせなら「阿」にひたりたい、朝から夜まで「阿」づくし、「阿」まみれで過ごしたいと思っていたので、残念だ。

どうせなら夕食だけでもと、同村にある「肴也」というお店の電話番号をぐるなびで調べて電話してみると、女性の方が出られた。
「そちらはサカナヤさんでいいですか?」と聞くと、「あっ・・・実はもう何年も前に・・・」廃業されたというのである。
どうりでストリートビューで普通の民家が映るわけである。
でも、個人の家の電話番号を載せている「ぐるなび」は問題なのではないだろうか。

結局、泊りは阿村の近傍の松島にある「五橋苑」にした。
ここも客室料理なのだが、素泊まりで一人客を快く受け入れてくれた。
食事は予約せず、その場で考えることにした。

天草には空港がある。
熊本空港からも便が出ている。
興味をそそられたが、さすがに5千円近く出してこの距離を飛行機で行くのはアフォなので、バスで行くことにした。

バスは「あまくさ号」と行って、熊本市街から出ているが、熊本空港からのリムジンバスから乗継すると割引になる。
それで、法事のために泊まっていたホテルから熊本空港まで送迎車で行ってもらい、そこからリムジンバスと「あまくさ号」を乗り継いで行くことにした。
2時間半ぐらいの旅程だ。

熊本市街の「交通センター」というバスターミナルで乗り換えるときに、バスの車内で「乗継証明印」をチケットに押してもらう。
これで割引になる。

「あまくさ号」はフツーのバスで、高速道路ではなく普通の道を走る。
蛭子さんと太川陽介さんがやっているローカルバスの旅みたいな感じだ。
ほどなく海が見えてきて、テンションが上がってきた。

20140808_amakusa1


熊本は景色がいいところが多いが、天草はそれにしても景色がいい。
小さい島々が海のなかにぼうっと浮かんでいて、ロジャー・ディーンの絵の世界である。

「岬めぐりのバスは走る」という歌が浮かんできて、とっさに歌詞を調べようと思って気づいたが、LTE電波がない。
Webを検索してもすごい時間がかかるのである。
大丈夫だろうか・・・と不安がよぎったが、冷静に考えると、「岬めぐり」の歌詞が分からなくても別にどうと言うことはないのである。
普段のぼくが情報中毒過ぎだ。

バスの中には「目的地以外でも、お手洗いに行きたい場合はお知らせください」的な表示があった。
尿意を催したので、運転手さんに相談しようかなあと思っていたが、ほどなくは「遊覧船のりば」というバス停に着く。
旅館はこの近くだ。

いい意味でひなびた温泉旅館であって、窓から海が見え、その向こうに五橋が見える。
和室に布団で寝るなんて十何年ぶりだ。

20140808_amakusa2


20140808_amakusa3


20140808_amakusa4

荷物を置いて、さっそく散策に出た。
昼過ぎだったので超暑かったが、それも思い出づくりである。

まず近所の「岬亭」というやや大きめのホテルで昼食を食べた。
なかなか高級な鉄板焼きレストランで、ひとり、地元の「天草大王」というのを使った石焼ビビンパを食べた。
20140808_amakusa4_5


天草は漁村なので、最初は「天草大王」とはダイオウイカかと思ったが、そうではなくて地元の地鶏らしい。
おいしかった。
ここはランチを食べるとホテルの温泉に浸からせてくれる。
お値打ちだ。

そこからひたすら海岸線を歩いて「阿村」を目指す。
途中にファミリーマートがあった。
田舎に来ると、あー田舎だ田舎だ、と思ってテンションが上がるのだが、ファミマとかがあると必要以上に安心するのはなぜだろうか。

国道を上って阿村に到達した。

20140808_amakusa5


あまりにも何もないのでスマホの地図を確認していると、地域のおじさんが坂道を急速度で降りてきて、「スマホ歩き」をしているぼくを「オイオイオイオイ!」と大声で威嚇した。
大の大人に「威嚇」なんかされるのは久しぶりだ。
第一村人との遭遇である。
「スマホ歩き」をしているぼくも悪いが、歩道を自転車で急降下してくるのも感心しない。
まあどちらも、絶対に人間に遭遇することはないと高を括っていたところではあるが、不幸な出会いだった。

海岸線をぐるりと回って「下大戸ノ鼻灯台」を目指す。
ここには九州一、日本で二番目に高い鉄塔があるそうだ。
たぶんコレだろう。

20140808_amakusa6


ここから旧坂を登るが、暑くて、飲み物も売っていず、つらかった。
歩いて行くものではない。

ようやく鉄塔の近くに到達したら、立札に不穏なことが書いてある。

20140808_amakusa7

マムシとか大丈夫か!
でもちょっとだけ早足で草むらに入って、こわごわ九州一の鉄塔の写真を撮った。

20140808_amakusa8

20140808_amakusa9

ま、「だから何」という感がいなめない。

坂道を降りていくと昔の海水浴場があった。

20140808_amakusaA


いちおう足を浸けてみた。

20140808_amakusaB

水が汚い。
こっちの海水浴場はもう使われてなくて、栄えている海水浴場は、やはり歩いて行ける別のところにあるっぽかったが、そっちは行かなかった。

「阿」に来た証拠を残そうと思って、阿村郵便局に行った。
閉局が午後5時で、結構ギリだった。

20140808_amakusaC2

自分あてに暑中見舞いを出した。
家に戻った翌日に届いたw

20140808_amakusaC3

次は名勝、高舞登山(たかぶとやま)を登った。
車で登れる山であって、けっこう山頂近くまでミカン畑や民家があって驚く。

途中「この先離合(りごう)できません」という立札がある。

20140808_amakusaC

これは九州地方でしか言わない漢語で、車両がすれ違うことだそうだ。

ここからがきつかった!
死ぬかと思った。
急坂を15分ほども登っていると、全身に汗が噴き出してくる。

最後の最後まで迷いそうになったが、Googleマップを頼って、最後は階段を登って、山頂に達した。

ここから見る天草諸島が最高の眺めである。

20140808_amakusaD

夕日の頃には世界でも有数の眺めが見られるというが、まだ夕方五時半で、熊本県の日没を検索すると1時間も先ということなので、諦めて降りることにした。

旅館に帰る途中で夕日を見たら美しかったから、この眺めを山頂で見るとさぞ美しいだろうなあと思った。

20140808_amakusaE


夜は地元の魚料理を食べようと思ったが、ふと目に留まった焼肉屋に入った。
この焼肉屋さん「楽」が大当たりで、2千円の食べ放題がものすごくおいしかった。

20140808_amakusaF

近くにお立ち寄りの方はぜひお試しください。
大ぶりのロースステーキをハサミでパチンパチンと切って食べるのがおいしかった。

旅館に戻ったが、LTE回線がつながらないので早々に寝てしまった。
翌日、客室の窓から眺めた朝日が美しかった。
のんびりと朝風呂に使ってから、バスに乗って帰った。

20140808_amakusaG

ということで、一人旅を満喫した。

このへん、イルカウォッチング遊覧船とかも出ていて、真珠も買えるそうなので、普通の旅行にもいいのではないだろうか。



さて、「阿」とはなんだろう。
辞書を引くと山や川が曲がりくねっていりくんだところと書いてあり、曲学阿世の阿である。

あ【阿】[漢字項目]の意味 - 国語辞書 - goo辞書

たしかに阿村もそうとういりくんだ地形であって、だからこその変化に富んだ景色があった。



さて、「阿」の定義である。
地名としては、いぜん「津」を以下のように定義した。

 ・ある空間の範囲を差す
 ・世界に一つしかない
 ・大きさが厳密に定まっている
 ・人為的なものである

これは、あらゆる地名について成り立つ。
この語を定義した時点では、地名は「津」しかなかったので、これで良かったのである。
いま、地名としては「阿」と「津」の2つを定義しなければならないので、「阿」にあって「津」にないものはなにか、「津」にあって「阿」にないものはなにかを、考えなければならない。

こうなる。

「阿」

 ・ある空間の範囲を差す
 ・世界に一つしかない
 ・大きさが厳密に定まっている
 ・人為的なものである
 ・熊本県にある

「津」

 ・ある空間の範囲を差す
 ・世界に一つしかない
 ・大きさが厳密に定まっている
 ・人為的なものである
 ・三重県にある

へなへなへな~
自分で書いていて腰砕けだが、こうならざるを得ない。
固有名詞とはこういうものなのだ。
これが阿と津の違いだ。
これ以上に的確に表せない。