時代の記録として書いておく。
6月18日、東京都議会の本会議で、みんなの党の塩村文夏議員が、少子化対策について質問中に、席上から男性の声で「早く結婚すればいいんじゃないのか」「産めないのか」というヤジが飛んだと言う。
塩村議員が「悲しい気持ちになった」とツイートし、それを3万人ほどがリツイートして、大きな問題になった。

Confederate congress
「早く結婚」というヤジが飛んだ瞬間は、質問する塩村議員の映像も、会議場の音声も残っていた。
だからヤジを飛ばした人の声も残っていたし、塩村議員がヤジを言った議員の方をちらっと見た瞬間も捉えていた。

自民党以外の議員からは、自民党の席の方向から声が聞こえた、と言っていた。
一方東京都議会自民党の吉村幹事長は「自民党議員の野次か確証がない」と言った。

23日になって、「早く結婚」という野次について大田区選出の鈴木章浩議員が自らの野次であると認め、自民党会派離脱届けを提出した。
ところがこの鈴木議員は、当初は自分が言ったことを否定していた。
「私じゃない」、「(犯人探しをしても)分からないと思う、野次なんて、いちいち聞いている人なんていないから」、「私も含めて、両側ではない」と発言していたのである。

この他にも、自民党の議員は「聞こえなかった」、「わあわあ言っているのは分かったが、何を言っているのか分からなかった」と発言している。
上の吉村幹事長も、鈴木議員のすぐ前に座っているが、当初は「自民党の野次かどうか分からない」と言っていた。

件の野次が起こった時、会議場にワッと笑いが起こった。
笑った人は、その野次を会議場の人は聞いていたと思われる。
舛添要一都知事もくだんの野次を聞いてニヤリと笑った。
しかし後で「野次の内容は聞こえなかったが、みんなが笑っているので釣られて笑った」と言っている。

事件は海外でも大きく報道された。
海外の報道では「sexist abuse(性差別者による虐待)」という言葉が使われた。
ついには自民党の石破茂幹事長が「言った人は早く名乗り出たほうがいい」と言った。

結局23日に鈴木議員が自分が言ったと認め、塩村議員に謝罪し、会派離脱届けを提出した。
というのが事態の流れである。

以下はぼくの意見である。

まず、議会において「野次は議会の華」、「新人議員は特に野次の『洗礼』を受ける」などと言う解説があるが、本当だろうか。
だったらそんな伝統はさっさと廃止した方がいい。
不規則発言を野放図に認めていると、文字通り声が大きい人が勝つことになる。

この件を受けたツイッターで、とある議員の話として書かれていたのが面白かった。
「議会で質問中に野次を飛ばされたら『いまxx議員が〜〜〜とおっしゃいましたが・・・』と咄嗟に言えばいい」そうである。
そうすると、質問者の発言になり、野次が議事録に残る。
すると、面白いことに野次がぴったり収まるそうである。

つまり、議員は野次を言わなくても議会は進むということである。

「新人議員に『洗礼』」などというのは、ものすごくいやらしい言葉である。
「シゴキは体育会系部活の伝統」、「新入社員は3年間泥のように働け」というのと一緒である。
そういう旧弊は打破した方が良い。

次にセクハラ発言について。
日本は男権社会、セクハラ社会であって、こういう発言が容認されてきた面がどうしようもなくある。
これについてもツイッターで、面白いことを聞いた。
セクハラを防止する研修を企業で行うと「どこからがセクハラなのか」、「自分たちはコミュニケーションを取ろうとしているだけだ」、「受け付ける側が気にしすぎじゃないのか」などと言われることがあるそうだ。
そのとき、研修する人は「みなさんの部署に社長の奥さん、社長の娘さんが配属されたとき、同じことが出来ますか。出来なければそれは、セクハラです」というと、「おお〜〜!」という声が上がるそうだ。
やっと腑に落ちる説明を聞いた、という訳である。
セクハラをする人は相手を見てやっている。
つまり、相手を見て判断するだけの脳の働きはまだ残っているのだから、止めれば止められるのである。

くだんの都議会での野次も、自分たちは匿名でカメラで映されていないし、回りの議員も一蓮托生でお互いに「誰が言ったかわからない、そもそもそんな野次あったんですか」とスッとぼけられる、相手は新人議員で、女だ、という条件が整って、ようやく発せられたのである。
だから、ことが大問題になって、自分が疑いの目を向けられると、大慌てで否定し、集団で隠蔽に走る。
これでは、オトナの人がよく言う、「インターネットは匿名で誹謗中傷に満ちている」というのと変わらない。
こんなのが「議会の華」であるはずはあるまい。

会議中の不規則発言、とくにセクハラ発言など、民間企業であれば一発アウトである。

とはいえ、問題になったときにさっと自分が言ったと認め、頭を下げればまだ別の展開もあったと思われる。
会派離脱を表明した鈴木議員は当初、自分ではない、聞いてもいないと言い張った。

議員は何か不祥事を起こすのも問題だが、過去の不祥事についてウソをつくと徹底的に糾弾される。
発言の信用度がなくなるからである。
よく引かれる例としては、ビル・クリントン大統領の「不適切な関係」問題がある。
これも最初にウソをついたために大変な問題になった。
一方ジョージ・W・ブッシュ大統領(二代目ブッシュ)は、若いころコカインなどの薬物を濫用していたことがあったが、あっさり認めたので大した問題にならなかった。

鈴木議員は最初ウソをつき、後になってそれを認めた。
もっとも、当初から相当しつこくインタビューされていたので、この人が発言したことをメディアはかなりの確度で掴んでいたと思われる。
「野次を言った議員は議員辞職にも値する」とも言っていたそうだが、今後はどうされるのか注目したい。

塩村議員は複数の野次を聞いた、と言っている。
登壇するといきなり「どなたさま!?」と野次を飛ばされたようで、これも録音が残っている。
これは「決まり文句」であるそうで、完全に、体育会系のシゴキ同様の、新人いじめの伝統が確立されている。
(最近は体育会のシゴキも批判を受け、変わっているという話であるが)

複数の議員が野次を飛ばした、その中には塩村議員が言っている「お前が産めないのか」という発言があったとすると、まだウソをついている人がいると思われる。
とすると鈴木議員はトカゲの尻尾きり、詰め腹を切らされた、ということになって気の毒だ。
まあ尻尾ぐらいでも切らないより切ったほうが良い。
今後、議員は発言に少々気をつけるだろう。

よくオトナやエライヒトはバラエティ番組やエロ漫画の低俗さを問題にするが、ぼくは一番低俗で子供に見せたくない番組は議会の中継だと思っている。
多数派が数を頼んでワイワイ発言を妨害し、言論の自由を封殺している。
そして採決になると強行採決である。
あれを見て育つ子供は、日本は民主主義とか言うけどそれはキレイ事で、最もエライヒト、選良と呼ばれる議員であってもルールを守らなくて、ワーワー騒いで人の発言を妨害してもいいと思うであろう。
学級崩壊をオトナが追認している形である。

海外からの批判も無視できない。
別に他の国で言われていることが正しく、日本はそれに従うべきだと主張するわけではないが、ここで問われているのは日本の民主主義、言論の自由、人権意識に関わる問題である。
ここで批判を受けると、そういう議員に投票して代表をつとめさせている日本人全体の根本の価値観が疑われてしまうのである。
われわれ日本人も、心の中に、「あの国とは取引をしたくない」、「ああいう国にならないようにしなければならない」という国を持っている。
よく海外のニュースで、議会でつかみ合いのケンカが起こったり、テロリストが公開処刑をしたり、警官が賄賂を受け取っているなどという報道があると、ぼくはつくづく日本に産まれて良かったと思う。
他の国の人にもぜひそう思ってもらいたい。
しかし、議会のセクハラ野次などという報道があると、日本全体がそういう国であり、我々日本人はそういう議員を代表として選んでいると思われる。
それは、少なくともぼくにはだいぶ不本意だ。