2014年5月24日土曜日、演劇実験室◎万有引力の「リア王」を見てきた。

King Lear

演劇実験室◎万有引力
この土曜日は実は他の用事があった。
この週末はすごく忙しかったので、この「リア王」は見られない予定だった。
土曜日の予定が金曜日にポカンと空いたので、まさか見られないだろうなと思って劇団のWebページを見てみたら、「当日精算予約」という枠が土曜日だけ空いていることが分かった。
速攻で予約した。

日曜日が千秋楽だったが、そっちはもう埋まっていた。
チケット予約サイト、カンフェッティでも扱っていたが、こちらはもとより全日程が埋まっていた。

土曜日は13時半開場、14時開演の昼公演だったので、13時頃高円寺に向かった。
どれぐらい並ぶか読めないのでもっと早めに行ったのだが、結果的にこれが良かった。
中央線の快速に乗って行ったのだが、土日に限って高円寺を通過して荻窪まで行ってしまったのだ。

以前阿佐ヶ谷に行くときもこの陥穽にハマったが、まさか高円寺も飛ばすとは思わなかった。
結局普通列車でUターンしたので、ギリギリの時間になってしまった。

会場は「座・高円寺」という杉並区立のけっこう大きい劇場だ。
高円寺を北口に降りて、中央線沿いを中野方向に5分ほど歩くと、道路の向かい側に見えてくる。

係員の人にWebで予約した旨を伝えると、ロビーの中で待つように言われる。
係員の人がすごく親切で訓練されている印象を受けた。
13時半になると当日券(いきなり来た人)とWeb精算予約(ぼく)の2列に分かれ、ぼくは97番だった。
自由席。
託児システムも用意されているようで、幅広い年齢層のお客さんがいた。

97番だったが、最前列が空いているので最前列右側、通路沿いに陣取った。
結局これが良くて、前や横の通路を役者が縦横無尽に走り回る演出だったので、得した。

座席につくと、木の棒が複雑に組み合わさった巨大な舞台装置を見上げる形になる。
舞台にはすでに仮面を被った俳優が数人いて、少しずつ動いている。

J・A・シーザーが主宰する演劇実験室◎万有引力は、寺山修司の「演劇実験室◎天井桟敷」の後継的な劇団だ。
ぼくは3月の「観客席」に続いて2度めの観劇になる。
「リア王」はシェイクスピアの四大悲劇のあの「リア王」である。

万有引力版のリア王は、シェイクスピアの生地であるイギリスのストラットフォード・アポン・エイボンでも91年に日本語のまま上演され、好評を得たそうだ。
万有版の正確な題名は「幻想音楽劇『リア王-月と影の遠近法-』」で、坪内逍遥版の日本語訳「リア王」をベースに、大量の歌、音楽、踊り、奇怪な舞台装置を付け加えたものだ。

ぼくは「リア王」は子供の頃「リア王物語」的な脚色されたものを読んでいただけで、ストーリーを知ったつもりになっていたのだが、現実にはリア王と3人の娘の他に、それぞれの婿の政略、諍い、裏切り、騙しが組み合わさった、大層入り組んだ複雑な物語であった。
万有版は「『あの』リア王を我々は『こう』表現する」という意図で作られているので、複雑なストーリーと、逍遥の古色蒼然とした言い回しのセリフに付いて行くのが必死だった。

しかし、楽しかった。
いままで演劇やバレエの舞台をわずかに見て持った感想だが、欧米の脚本を日本人がストレートに演じる「赤毛物」は、どこか悪い意味の違和感、無理してる感を受ける。
しかし、万有版は衣装、演技、踊り、音楽、舞台装置など、すべてがまったくのオリジナルで、その迫力に圧倒された。
和でも洋でもない、見たことがない異形の人びとが異形の空間で演技している。
踊りも歌も訓練されていて、迫力がすごい。
信じるものから裏切られて荒野を放浪し、発狂するリア王の物語を見ていて、観客のぼくもちょっとキチガイになるような感覚を味わった。
複雑な演劇で、もっと何回も見たかった。
1回しか見なくて失敗した。

途中劇中の人物が両目をえぐり取られる場面があって、その瞬間に暗転したのがものすごく怖かった。

舞台が終わって外にでると、高円寺はまだ16時半である。
コンクリートの歩道の照り返しが眩しかった。
中野まで歩いて、ラーメンを食べて帰ったが、これがちょっと失敗で、土曜日の夕方のJR下りはめちゃ混みであった。
さっきまで舞台の幻想の世界に酔っていたのに、散文的な満員電車の世界に飲み込まれて、気持ち悪くなった。
まあ土曜の昼の部はこういうリスクがあると分かって良かった。
舞台は見れば見るほど見る方にもスキルがついてきて、より深く楽しめるようになるという、当たり前のことを思う。