イエスのアルバムを紹介する。
大体好きな順に書いている。
今日紹介するアルバムは『海洋地形学の物語』(Tales from the Topograohic Oceans)である。
最初先週に紹介した『危機』の次のアルバムに当たる。

Deep sea (373831271)
『危機』までドラムをつとめていたビル・ブラフォード(ブルーフォードが最も正しいカタカナ表記らしいが、日本のレコード会社的にはブラッフォード、ブラフォードが多い)が抜け、アラン・ホワイトが入った。
ホワイトはジョン・レノンのアルバムなどでも叩いてた人だが、ブラフォードに比べると手数が少なく、ロック的な大きなノリのドラミングが特徴的で、とかく技巧を重視する日本のマニアックなファンには評判が悪い。
実際にはホワイトは最も長期間イエスのドラムを叩いていた人で、『究極』、『海洋地形学』、そして来週紹介する『リレイヤー』(このアルバムはイエスのアルバムの中で最も音楽的に高度で複雑である)という名作でも叩いているので、ジョン・アンダーソンの信頼は最も厚いと思われる。

『海洋地形学』はインド哲学の本を題材に、ヴォーカルのジョン・アンダーソンとギターのスティーヴ・ハウがホテルの一室にこもって、キャンドルを灯して書き上げた作品と言われている。
イエスというとアンダーソンがほとんどコントロールしているバンドだが、ハウもかなり創造的な部分で貢献していることが分かる。

なお、このアルバムを最後にキーボードのリック・ウェイクマンがバンドを去る。
ウェイクマンは難解な音楽、哲学的な音楽、宗教的な音楽を嫌っていたらしく、このアルバムのアンダーソンの抹香臭い感じが嫌で脱出したようである。
まあ、アンダーソンが思い込みの激しい、色んな物に影響を受けやすい性格な人であることは間違いなく、エンターテインメント指向が強かったウェイクマンがそういう面を嫌ったのは分からないでもない。
イエスのメンバーはアンダーソンの影響で菜食主義だったが、ウェイクマンひとり反対して、肉のかたまりにかぶりつく写真を撮らせたりしていた。
そういういざこざがあったのは間違いないようである。
ぼくにしてみれば、そういう行き違いじたい面白く、当時のロックの雰囲気を感じる。

ウェイクマンはアルバムの収録の最中に抜けだしたらしく、第2曲「追憶 - The Remembering (High the Memory)」は彼の見せ場になるような美しい曲であるにも関わらず、ハウのアコースティック・ギターがやたら出てくる。
またWikipediaによると第4曲「儀式 - Ritual (Nous sommes du soleil) 」の最後のピアノはホワイトが弾いたそうだ。

ただ、ライヴ・アルバム『イエスショウズ』の中でウェイクマンは「儀式」を演奏しているのが面白い。
正確な時系列が知りたい。
(※2014-03-14追記:Yesshowsの「儀式」はパトリック・モラーツがキーボードを弾いていると、コメント欄でご教示いただきました。)

『海洋地形学』は70年代プログレの大作主義の極致と言うべきアルバムで、30cmビニール・アルバムで4曲しか入っていない。
ABCD面のそれぞれに1曲しか入っていないという珍しいアルバムである。
それでも全英1位、全米6位に入ったアルバムで、英米両方でゴールド・ディスクになっている。
当時いかにイエスおよびプログレが人気があったか、その大作が受け入れられていたかが分かる。

第1曲「神の啓示 - The Revealing Science of God (Dance of the Dawn)」はモロに「お経」のようなヴォーカルで始まる。
最初はギョッとしたが、これがなかなか高揚感があって良い。



ぼくはアンダーソンの宗教的な思想というものはまったく分からないが、わからないなりに、SF的な異界感があって楽しい。
ちなみにこの曲はリマスター版のCDが出た時に、最初にちょっと効果音とハウのボリューム奏法によるホニョーというギター音による序奏が追加された。
上のYouTubeの映像はその序奏が追加されたものだ。
リマスター版で音楽の内容が変わるというのを初めて聴いた。

長い曲だが、複数の違う曲がつぎ合わせられた印象で、それほど難解とか聴くのに気合いがいるという感じはない。
とりあえず美しく、優雅な音楽である。

第2曲「追憶 - The Remembering (High the Memory)」はより静かでゆったりした曲である。



上にも書いたがハウのギターがフィーチャーされていて、スペイン的な印象がある。

第3曲「古代文明 - The Ancient (Giants under the Sun)」はこのアルバムにしてはハードで激しい曲である。

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このアルバムは全体としてクラシックの交響曲の様式を意識したようで、第3曲はスケルツォに当たるようだ。

第4曲「Ritual (Nous sommes du soleil)」は全体をシメる曲で、のちにライヴでも演奏されたようにこのアルバムを代表する曲である。



とりあえず詩や題名に小難しい印象を受けるアルバムだが、音楽は美しく、ゆったりした気分で聴ける。

のちにアンダーソンは本格的にスピリチュアルとか、エコとか、ヒーリングとかそういう題材に取り組み、そういうアルバムを連発するのだが、その前触れというかさきがけになったアルバムである。
しかしながら、このアルバムの方が後期のソロ作品よりも明らかにすぐれている。
とにかくこの頃はアンダーソンもハウもメロディが溢れでて止まらないという印象である。
また、アンダーソンとハウの息がぴったりと合っている。
ハウは相変わらず裏メロを弾きまくっているが、それが全然邪魔になっていない。
とかく長い、冗漫、という評判があるアルバムで、CD2枚に4曲という物理的な性質上しょうがないとも言えるが、予定がない日にゆったり聴いてみると良い。
いわゆるヒーリング・ミュージックが好きな方にもおすすめである。