さて、カテゴリー『私のレコードアルバム』のミニシリーズ「マイルスはこの順番に聴け」の第3回である。
だいたいぼくと同じような、いわゆるジャズはまったく聴いたことがない中年のロックファンが、マイルスの世界にハマるにはどの順番で聴くのが一番効率がいいかオススメを書いている。
大きなお世話であるが、まあお付き合いください。

さて、ぼくはもともと、プリンスやスクリッティ・ポリッティ、チャカ・カーン(正しくはシャカ・カーン)のレコードでゲストで吹いているマイルスを聴いて興味を持ったが、そのときに大いに参考にしたのが、音楽評論家・中山康樹(なかやま・やすき)氏の『マイルスを聴け!』である。
言わばこのブログの種本と言える。



この本はマイルスのレコードを基本的に年代順にすべて紹介しているが、ぼくはこれを読んで、なんとなく気になったものから順に聴いていった。
もっとも、ジャズ時代、アクースティック(この表記が原音に近いらしい)時代、フォービート時代のものはほとんど聞いていない。
全体の枚数的にも、紹介されている十分の一も聞いていない。

マイルスにある程度ハマるとこの本はいつか買うことになると思うが、特徴的なのは、ブートが数多く紹介されているということである。
ブートとはブートレッグ(bootleg)の略で、もともと密造酒のことだ。
かつては密造酒を革の長靴に隠したことに由来する。
日本語では海賊盤とも呼称する。

「えっ海賊盤とか聞いてるんですか、それはワルイコトじゃないんですか」という意見もあるだろう。
この点について少し議論したい。

まずブートには、オフィシャル版のCD、マイケル・ジャクソンであれば『スリラー』とか、マイルスであれば前回紹介した『Man With A Horn』とか、そういうものをガッとコピーして、もとのより安く売っているものがある。
これは法的にも同義的にもマックロである。
オリジナル盤を買えば同じ音が聴ける。
その意味で弁護の余地はまったくない。

問題はマイルスやフランク・ザッパ、レッド・ツェッペリンなどに代表されるジャズやロックの大御所の、オフィシャルには発売されていない音源を売っているものである。
価格的にもオリジナルより高い場合がある。
ヤフオクなどでは「プライベート盤」と書いていることもある。
ものは言いようだ。

多くは練習風景とか、ボツになったテイクをまとめたものであったり、コンサートをスタッフが記録用に録音したのをまとめたものが多い。
(スタッフが録音したものをサウンドボード音源という。音質は当然いい。)

また、オーディエンステープというのもある。
これは客がコンサートにデンスケなどの録音機を持ち込んで録音したものであり、当然音は悪いし、歓声や拍手なども入っている。

こういう、未発表音源のブートは、それを買うしか聴く方法がない。
では、これも違法なのか。
レコード会社は当然違法だと言うだろう。
一方ミュージシャンは、立場上おおっぴらに推進もできないが、どうしようもなく楽しんでいるケースもある。
このリンクにはマーカス・ミラーのブートについての考え方が書いてあるが、ニュートラルなものである。
一方、中山氏のように評論家という立場でブートを大プッシュしている人もいる。
人生いろいろである。

さて、ぼくはブートをそこそこ聴く派だが、どうせブートを聞くならブートの中のブート、ブートならではのブートという一枚を聴くのがいいと思う。

で、ここでは「Parisian Night」をおすすめする。
なお、さっき紹介したマーカスのサイトにはブートの情報もあって、今日紹介するCDの情報も乗っている。




ぼくはこれを渋谷の「マザーズ」に買いに行った日のことを、今もありありと思い出す。

その店は東急ハンズの近くの狭いビルの一室であって、部屋中にびっしりとCDとDVDが、何かの事件を起こした人の部屋みたいにうずたかく積み上げられていて、その中に店の兄ちゃんが、作りつけの家具のようにはめ込まれていた。

で、品物を探そうとするが、当然素人には探しきれないのである。
ヘタに手を出すと山が崩れてしまって下敷きだ。
兄ちゃんが「探してるものがあったら言ってください・・・」とボソりと言う。
「パリジャン・ナイトっていう・・・フランスで公演中に停電になって・・・マーカスがベースラインをサックスで吹いて演奏を強行した・・・」
というと、「えっとー、1982年ってことですよね・・・」と言って山を探し始めた。
で、しばらくして「どのページにあるか教えてもらえますかね・・・」と言って、何十人もの人がめくってヨレヨレになった『マイルスを聴け!』を渡してくれた。
なるほど、合理的だ!
「これです」というとすぐ見つかった。

それでワクワクして買って、家に帰って開封すると、盤面が青い。
CD-Rだ!w
それで、iTunesにインポートすると、なんとCDDBで曲名が出てくる!
ああ楽しい。
こういうときぼくは、充実した生を感じる。

で、内容であるが、年代的にはWe want Milesと同じ頃であるが、とりあえず演奏が下手で、音がメチャクチャ悪い。
でももはや、マイルスであればなんでもいいマイルス脳になっているので、その下手さもまたいい、と思ってしまう。
聞き物は、上でマザーズの店員とぼくの会話に出てきた停電(機器トラブル?)のくだりであるが、これがメチャクチャ楽しい。
詳しくは中山氏の本に当たって欲しい。

ほとんどオフィシャル盤と同じ曲が、より悪い演奏、悪い音質で入っているブートをなぜ推すかというと、ひとつは前回スタジオ盤とライブ盤の聞き比べでも言ったように違いを聞き分けることが勉強になるからであり、もうひとつにはメチャクチャ楽しいからだ。
ぼくのiPhoneにはマイルスの同じ曲が何バージョンも入っている。
「ディレクションズ」なんて曲は、ザヴィヌルのバージョンも入れると20バージョン以上入っている。
これが、楽しい。
「ディレクションズ」だけのプレイリストを作ったり、「ディレクションズ・イントロ大会」などを一人で催したり出来るのだ。
非常に豊かな気持ちになり、音楽が良く分かる。
ということで、ブートは楽しいのでオススメである。
なお、地方の方はわざわざ渋谷に行くことはなくて、ネットで買うのがお手軽である。

マイルスのブートでは、もっと音質がよく、演奏的にも重要なものがたくさんある。
追って紹介するので楽しみにしていて欲しい。
まだ早いよ!w

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