証券会社のCMで、こういうのがある。
「鈴木さんは、来てくれる」(名前は全部いい加減です)と言って、シャンとしたイケメンの営業マンの鈴木さんが家までやってきて、投資信託や個人年金の話をしてくれる。
「佐藤さんは、待っていてくれる」と言って、こぎれいなOLの佐藤さんがこぎれいな店舗で待っていて、居心地のいい椅子で納得いくまで投資信託や個人年金の質問を聞いてくれる。
他にも「山田さんは、聞いてくれる」と言って電話で相談に乗ってくれるパターンもあったかな?
要は、この証券会社は商品の安全性や危険性や将来性について、納得が行くまで説明してくれるから、こういう証券会社で投資信託や個人年金を買ったら安心ですよ、どうせ金融商品を買うならこういう店にしましょう、と言っているようだ。

で、ぼくはこの考えに絶対反対である。
こういう説明をする人の時給は最低2千円はする。
(1日8時間、月に20日働いたとして160時間だから、32万円だ。いいところではないだろうか。)
実際には事務所の地代家賃、管理部の給料などの諸経費が掛かるから、ひとり1時間5千円はかかっているだろう。
3時間で15000円はかかる。
しかも、呼ばれたらすぐ言ったり、いつ来てもらっても大丈夫なように体制を整えて待っていなければならないのだ。
こういう人の経費は大変に掛かっていると思われる。

一からクドクド説明してもらわないと分からないような素人が、なけなしのお金をあずけて、利子を1万円貯めるのは大変だ。
しかし、手数料は確実に持って行かれる。
儲けようが、損しようが持って行かれるのである。
金融商品の手数料は、1円でも安い方がいい。
それを考えたら、サービスが手厚い金融会社は、それだけで忌避するのが正解だ。

証券会社を選ぶなら、セールスマンが来ないものがいい。
口座の開設も、売買も、全部自分で出来るのがいい。
となると結局、ネット証券、ネット銀行になるだろうと思う。

もちろんそういうのをわざわざ使うのはメンドクサイ。
しかし、そういうネットが使えるのは自分の「強み」だ。
「強み」を生かして有利な取引がしたい。

「その道のプロの親切な意見」を取り入れれば安全で、しかも有利な取引が出来るだろうか?
たとえば、投資信託にはファンドマネージャーが自分の好みで株を買って市場平均以上の儲けを出そうとするアクティブファンドと、市場平均に機械的に近づこうとするインデックスファンドがある。
セールスマンが進めるのはアクティブファンドやバランス型ファンドなど、会社のカラー(そして独自の手数料)が入った複雑な商品だろう。
実際には、アクティブファンドはインデックスファンドに比べて、勝ったり負けたりである。
確実なのはアクティブファンドはインデックスファンドに対して、ファンドマネージャーの給料ぶん余計に取られるということだ。
勝っても負けても取られる。
逆に言うと、ファンドマネージャーに負けはないのである。

ぼくが冒頭にあげたCMがキライなのは、「人間同士のコミュニケーションの暖かさ」、「人間の思いやり」と言った「良きもの」を商品性に結び付けていることだ。
鈴木さんや、佐藤さんや、山田さんは、心の優しい人で、自分を頼って来てくれるおじいさんやおばあさんにお金を儲けて欲しいと善意で思っているから、雨の中家を訪問したり、事務所でおいしいお茶を出したりしてくれるような気がする。
でも実際にはそんなわけはなくて、ゼニモーケでやっているのである。

人間同士の触れ合いが欲しければ、キャバクラか、ホストクラブか、もっとマイルドには駅前のスナックに行けばいいと思うし、もっと普通には友達と食事に行った方が効率がいい。
人間関係の暖かさに触れ、寂しさを癒してもらって、そのうえさらに、気が付いたらお金まで儲かっていた。
「ンなわけない」と思うのである。

最後は社長の斬殺という悲劇的な結末を迎えた豊田商事のゴールド商法は、とても信じられない儲け話に数多くのおじいさん、おばあさんがなけなしのお金を出した。
なぜ老人がなけなしのお金を出して金で大儲けしようなんて思うのだろう。
普通では考えられないのである。

NHK特集で、こういう老人の一人がポツリと言っていた。
「あの人たちは話を聞いてくれたから・・・」
田舎の一軒家で老人がひっそり暮らしている。
そこに若いサラリーマンがやってきて、いろいろ新奇な話をしてくれる。
中には「息子と思ってくれ」と言ったり、線香をあげていく営業マンもいたそうだ。
これは、だまされる。
たとえゴールド券であってもだまされて買ってしまうのである。

保険会社のCM(家族を持つという責任を果たすには保険がどうとか・・・)とか、住宅ローンのCM(家族を持つという責任を果たすには住宅ローンがどうとか・・・)とか、クレジットカードのCM(家族にお金で買えない思い出をあげるにはクレジットカードがどうとか・・・)のように、「人間の触れ合い」、「暖かみ」、「愛」、「家族」と言った「絶対に否定できない」美しいキーワードをまぶして、「わずかばかりのお金を出せば、あなたという人間を愛情にあふれた『良き人』に変えてあげますよ」と言うような、宗教まがいのCMが多い。
ぼくたちは心が弱い。
年を取ると年々弱くなっていくので、気を付けた方がいい。




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