連載の第10回。
今回はライヴ・アルバム『8:30(エイト・サーティー)』を紹介する。



ドラムのピーター・アースキンが正式に加入し、最も人気があった頃のライヴ・アルバムだ。
ウェザーの場合は、スタジオとライヴの演奏があんまり違わない。
それほどハイテクなバンドだったのだ。
なにしろ、最高傑作『ナイト・パッセージ』もスタジオ・ライヴである。

ジャコ加入以前の古い曲も演奏しているが、演奏が新しくなっている。
まずオープニングの「ブラック・マーケット」が良い。
スタジオ盤ではちょっとフニャッとした感じで、ソロも終わり方もウェザーらしいパラダイス感が足りなかった。
ライヴ版こそ決定版と言えるだろう。

この演奏は面白い話があって、アースキンのドラムをメンバーがスタジオでプレイバックして聴いていたときに、ザヴィヌルがアースキンのアルバムを最初は「いい音だ」と褒めていたものの、途中でショーターのサックスと迎合的な演奏があったので「これはやるな」と言ったそうだ。
たぶん6分54秒頃の「タッタッタッタッタッ・・・」とサックスの上昇に合わせてスネアをパンパンパンパン・・・と叩く部分だと思うが、「Always Solo, Never Solo」(全員が勝手なことをやっているが一つの音楽になっている)の精神に反すると言ったそうだ。
ちなみにぼくはココがカッコイイと思っていたし、今聴いてもカッコイイ。
このサックスソロの背後でなっている「カラカラ・・・」というパーカッションの音がいっそうパラダイス感を高めている。
パーカッションメンバーはクレジットされていないのだが、ジャコが演奏しているのだろうか。

ちなみに同じ頃のDVDの演奏もあって、これも楽しい。



このドイツでの75年、78年、83年の演奏の78年の演奏がそうである。



この頃のザヴィヌルはライヴのとき時々シンセサイザーの鍵盤を左右逆転して演奏していたようだ。
上のYouTubeの画像でそれがはっきり分かる。
(何のために・・・?)

「ティーン・タウン」はテーマをジャコのベースに合わせてザヴィヌルがシンセでユニゾンしている音がはっきり聴こえる。
さっきのアースキンのドラムのダメ出しと矛盾するような気がするが、このユニゾンがいいんだ、とザヴィヌルは評伝で語っているが、確かにこのユニゾンはすばらしい。

「リマーク・ユー・メイド(お前のしるし)」もライヴ盤の方がすばらしい。
4分半ぐらいからのザヴィヌルの、情念たっぷりのシンセのソロが続く。

「スラング」はジャコのソロである。
いわゆるベース・ソロの概念を超える、ディレイ・マシーンを使った一人即興多重録音のような演奏が聴ける。
引用されている曲はジミヘンの「サード・ストーン・フロム・ザ・サン」である。



この頃のジャコは完全なロック・スターのような存在で、アンプの音を爆音にしたり、ステージにベビー・パウダーを撒いてスライディングしたりしていた。

マイルスで有名な「イン・ア・サイレント・ウェイ」も演奏している。
DVDだと、ウェザーのファーストアルバムの曲「ウォーターフォール」とメドレーになっている。
これがイイ。
「ウォーターフォール」はベースがヴィトウス時代の曲だが、ジャコのピッチが正確な演奏の方が曲の世界をよく表していると思う。
あと、話が前後するが、DVDだとショーターが「イン・ア・サイレント・ウェイ」のテーマをちょっと口笛で吹いているのも楽しい。

代表曲「バードランド」は、ライヴではリズムがシャッフルになっている。
これは、ザヴィヌルはもともとこうしたかったのだが、レコード会社の意向で普通の8ビートになったそうだ。
最後を飾るのが「バディア」と「ブギ・ウギ・ワルツ」の緊張感あふれるメドレーだ。
ウェザーのライヴではおなじみの演奏だが、もともと全然違う曲だったというのが信じられない。
このバージョンで聴き過ぎたので、オリジナルの「バディア」と「ブギ・ウギ・ワルツ」を聴くとどっちも途中で終わるような違和感がある。

ここまでライヴ演奏で大盛り上がりに盛り上がりながら、最後の4曲は突然スタジオ盤の新作になる。
なお、このメンバーなのに『ミスター・ゴーン』『ナイト・パッセージ』の曲はなぜか取り上げていない。
ザヴィヌルの話によるとエンジニアがついうっかり消してしまったという話だが、本当だろうか。

ちなみにDVDには新しいアルバムの曲がちゃんと入っていて「貴婦人の追跡」がスタジオ盤ではオーバーダビングしていたシンセのテーマをザヴィヌルが分けて(2倍の時間で)弾いているところがあって面白い。

「8:30」はドラムがジャコである。
この編成でいきなりコンサートを始めて観客を熱狂させるという演出もあったそうだ。

2曲目の「ブラウン・ストリート」は最初良さが良く分からなかった。
「ナイト・パッセージ」同様我慢して聞き込んでいると、適当に弾いているようなザヴィヌルの演奏が、これ以外にあり得ない、と感じた。

ちなみにザヴィヌルが晩年にWDRビッグバンドと演奏した『ブラウン・ストリート』の演奏もいいぞ。



ちなみにこの曲はベースがジャコではなくてザヴィヌルがシンセで弾いている。
ジャコはアイディアが出なくて一緒に演奏する勇気が出なくなり「交通違反で捕まった」とウソの電話を掛けてきたのでザヴィヌルがベースをやることになった。
そうザヴィヌルが評伝で言っている。



本当だろうか。
どうもジャズマンはジョージ川口をはじめ話を「盛る」傾向があって、どうもニワカには信じがたい。

ラストの「サイト・シーイング」はショーターの最高傑作のひとつである。
ハリバリ、ゴリゴリの4ビートジャズであるが、まったく古臭くない。
メンバー全員がノリノリで演奏していて、大作の掉尾を飾るのにふさわしい。
終盤に突然不気味な電子音が鳴り響くのが面白い。
ぼくはショーターが郊外を車でドライブしていて、突然UFOに出会った情景を想像してしまった。
昔のアメリカのパルプ雑誌のSFを思わせる、けばけばしい電子音だ。


毎回紹介しているが、ウェザーのアルバムはセットで買うとお買い得である。
安いから全部聴いて欲しい。





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