連載の第11回は、またも目次案について考察する。
今回は「玉ねぎ法」という本の作り方について考える。

目次案は、ブログ程度の短い文章であれば書ける人が、本一冊という大きな、長い本でまとまったことを破綻なく考えるための設計図であると述べた。
その設計図には、最近流行りの言葉ではデザインパターンとかフレームワークとか言われる枠組みがある。
枠組みを意識して本を書けば、書くほうも楽に遺漏なく思っていることを述べられるし、読むほうも楽に頭に入る。

今日はこの枠組みの中で、「玉ねぎ法」について考える。
ぼくが適当に考えたオリジナルの名前だが、たぶん似たようなことは誰でも考えていると思う。

宇宙というのは玉ねぎ状をしていると言われる。
原子核の周りを電子が回っている。
地球の周りを月が回っている。
太陽の周りを地球が回っている。
的な感じである。
あと、1日は1年に似ている、1年は一生に似ているとも言われる。
あくまで比喩の範囲だが、こういうことは不思議と成り立つ。

社会についてもこれは成り立つ。
町内会は市町村に似ている。
市町村は都道府県に似ている。
都道府県は国家に似ている。
こういう風に玉ねぎ状の構造を見出すことで、単純なものをモデルとして複雑なものを解きほぐして説明することができる。

たとえば物理学で、最初は物体を質点という、質量を持った点として考える。
つまり物の大きさ(縦横斜め)や形(球だったり、棒状だったり)をすべていったん無視(捨象)して考える。
これでも物体の速度、加速度、力、質量といった関係は一応考えられる。
ボールを投げたら放物線を描いて落ちる。
この運動を説明するために、ボールが野球のボールであるのか、テニスボールであるのか、パチンコ玉であるのかは無視してもそこそこ正確な値が得られる。
この時点まで物理学をマスターした人は、かなり正確にボールの挙動を計算する。

たとえば地球や他の惑星の軌道を計算する場合は、多少山が崩れようが海が干上がろうが全然影響ない。
天体の運行を計算する上において、惑星は質点と捉えることができるのである。

大切なのは、この時点で力、質量、速度、加速度と言ったものの定義をマスターすることだ。
もしこの世の物体がすべて質量を持った点だったら、あらゆる物体の動作を正確に予想できるところまで行くのである。

で、次に物体を剛体として捉える。
これは、物体を、大きさと形を持っているが、やわらかさがゼロで絶対に形を変えないものとして考えるのだ。
これで、質点と比べて、その場での回転(細長いものの場合タテ回転かヨコ回転か)を考えなければならなくなり、問題が難しくなる。
ここで、回転運動も加味した物体の動作を学ぶ。

ここで大切なのは、
・質点力学で学んだことが剛体力学を学ぶ上の基礎になっていること
・質点力学では分からなかったことが剛体力学でマスターできること
である。

で、次に当然の成り行きとして、物体が変形する(へしゃげたり、引き伸ばされたり、壊れたりする)ことも計算に入れる。

物体のことを考えるのに、最初から大きさと形とやわらかさを加味して考えてもうまく行かない。
わけがわからなくなるのである。
最初は質点、剛体というありえない単純なモデルを考えて、各段階をマスターしてから論理的にモデルを複雑にしていくことが、複雑で大きなことを考えるコツである。

このようにして、最初は単純な問題を考え、それをサブセットとするより複雑な問題(スーパーセット)を考える、という形で問題を膨らませていく、世の中の複雑な問題に対応する一般的な理論を獲得していくのが玉ねぎ法だ。

最初に小さなモデルについて一通りの理論を学ぶことで、ある程度実用的な問題が解けるので読んでいる方は助かる。
次に大きなモデルに進むのだが、小さなモデルで基礎は出来ているので無理なく学ぶことが出来る。
そして、大きなモデルならではの問題(小さなモデルでは問題にならなかったが大きなモデルではじめて問題になる問題)を明確化することで、大きなモデルについても正確に学ぶことができる。

このとき、
 ・モデルの選び方が適切かどうか
 ・小さいモデルについて十分に研究しつくしているか
 ・その例を大きなモデルに無理なく発展させているか
 ・小さいモデルでは無視できるが、大きなモデルでは無視できない問題を明確化しているか
に注意する。

「文字コード【超】研究」の10進数、2進数、16進数の章や、ASCII=>ISO 2022=>JIS X 0201=>JIS X 0208=>JIS X 0212=>JIS X 0213という流れは、上の玉ねぎ構造を強く意識している。
もっとも、コンピューターの世界はもともと人間によって論理的に作られているので、こういう枠組みが馴染みやすい。

コンピューター以外の本でも援用できるだろうか。
たとえば国際政治の話をするとき、町内会の話で入る。
ある家では農業をやっていて、ある家では商売をやっている。
ある家には無法者がいるが、ある家にはおまわりさんがいる。
そういう話をしてから、より大きな国レベルの話に入るというのは可能であろうか。
ぼくは町内会も国際政治も詳しくないので、よく分からない。
詳しい人は誰か書いてみてください。

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