あと3回ぐらいこの連載書こう。
マイルスの名前が最近また復興したのは、彼がキャリアの末期、80~90年代にMTV世代のキャッチーな曲をカヴァーしたのが大きいと思う。
70年代以前の作品に比べて朗々とした響きではく、聞き比べると、正直ちょっと、だいぶ、衰えたという感じは否めない。
しかし、味がある。
元曲が超・有名、聞き飽きるぐらい聞いているヒット曲ばっかりなので、その記憶をバックグラウンドにして聴くと、マイルスらしさが浮かび上がってくるのである。
この方向から攻めるのも、もう一つのマイルス入門として好適であろう。

まずはアルバム『TUTU』に収録された、スクリッティ・ポリッティの「パーフェクト・ウェイ」だ。


『TUTU』はマーカス・ミラーが全面プロデュースした作品で、マーカスが一人のウチコミでバック・トラックを作って、それをカラオケ状態にしてマイルスが吹いている。
ジャズと言えばライブ感のある即興演奏が身上、と思っている旧来のマニアにはジャズらしくないと思われているらしい。
しかしながら、マイルスのこの手法はアランフェス協奏曲に題材を取った『スケッチ・オヴ・スペイン』と同じである。
ちなみにタイトル・トラックの「TUTU」は「ジャン!」というオケヒ(オーケストラ・ヒット)が入っていて、アー80年代、アート・オヴ・ノイズ、イエスの「ロンリー・ハート」と思う。

「パーフェクト・ウェイ」はイギリス出身のニュー・ウェーヴ・バンド、スクリッティ・ポリッティの曲だ。
スクリッティはまた80年代的なバンドで、ジャパンやアズテック・カメラのような、ルックスのいい天才肌の若者がフロント・マンになったエレクトロニックなバンドであるが、中でも明るくてファンキーな曲が多く、ぼくは大好きだ。
「パーフェクト」はリーダーのグリーンがニューヨークに渡って作ったアルバム「キュービッド&サイケ’85」に入っていて、ベースをマーカスが弾いている。
ちなみにDAMのカラオケにもなっていて、結構デキがよくてぼくはよく歌う。

マイルスがニューアルバムを作るに当たって、参考にすべきサウンドを大量にマーカスや他のミュージシャン(プリンスもいた)が送った中に、「キュービッド&サイケ’85」があって、その中からマイルスが特に「パーフェクト・ウェイ」を選んだそうだ。
また、最初はアルバム・タイトルが「パーフェクト・ウェイ」になるかもしれなかったそうだ。
軽快なカヴァーというか、原曲そのままという気がするが、これをマイルスはすごく気に入って、ライヴで何回も取り上げている。

続いて、マイルス史上最もポップなアルバム、『You're under arrest』に入っている「ヒューマン・ネイチャー」と「タイム・アフター・タイム」である。



「ヒューマン・ネイチャー」は超ご存知マイケル・ジャクソン『スリラー』の曲だ。
モロTOTO感バリバリの曲だが、本当にイイ曲だ。
こんな超有名な曲を、ただイイ曲だからというのでレパートリーに堂々と取り入れてしまうマイルスの偏見のなさがまたすばらしい。
マイケルの声の「泣き」がマイルスに通じるものがあるので、よく馴染んでいる。

「タイム・アフター・タイム」はシンディー・ローパーの曲だ。
これはザ・フーターズのロブ・ハイマンと言う人が作曲で、フーターズ版の演奏もあるが、シンディは作詞にも参加しており、シンディ歌唱のものがオリジナルである。

マイルス版はスカ/レゲエっぽいアレンジがなされている。
このアレンジは半世紀近くマイルスを支えてきたギル・エヴァンスによるものだ。

ぼくは80年代のマイルスのはこの曲が代表曲だと思う。
ライブでも何回も繰り返し取り上げられ、ニュースなどにマイルスが出るときはこの曲を吹いていることが多いと思う。
何回も取り上げられるうちにどんどん演奏は長く、崩されていき、完全にマイルスの曲になっていた。
あらゆるマイルスの演奏の中でダントツで分かりやすく、しかも哀調があってすばらしい。

ぼくはこの曲を聴くたび、野外のロック・フェスで、夕方に聴いているような気分になる。
ザヴィヌルがウェザー・リポートを作るとき、「俺たちはもう昔ながらのジャズ・クラブ向けの音楽はやらない。もっとアウトドアな音楽をやるんだ」と言っていたが、それを思い出す。
たぶんマイルスも同じ気分だったと思う。

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