ちょっと遅めのレポになるが、ちょうど一週間前、12月10日の土曜日は、新宿シアターPOOに、昭和清吾事務所の企画「われに五月を」を見に行った。
 1日限り、昼夜2回公演で、ぼくが見たのは夜の部。

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 見に行ったきっかけはまたしても、バー「月光密造舎」だ。
 11月中頃の閉店イベントで、臨時でバーテンを勤めていた、ふだんはSAIや百眼の舞台に立っている麻宮チヒロさんに、今度はどちらの舞台に立たれるんですか、と聞くと、来月は昭和清吾事務所のイベントに出るとのことだった。

 ぼくは寡聞にして昭和清吾事務所のことを知らなかったが、もともと寺山修司の天井桟敷のアジテイターであった昭和清吾さんの事務所で、清吾さんが亡くなってからはこもだまりさんが、イッキさんという方と引き継いでおられるそうだ。

 そのとき同じバーにおられた役者さんに「ぼくは演劇を見るようになったのごく最近なので、知らないんですが、寺山さんをやる劇団って、すごくたくさんあるじゃないですか。ぼくの勝手な見方だと、真面目度の順番で言うと、月蝕歌劇団があんまりマジメじゃなくて、A・P・B-Tokyoが中ぐらいにマジメで、万有引力がすっごくマジメ、っていう印象を持っているんですが、昭和清吾事務所はどれくらいですか」と聞いてみた。
 すると「ああ、それで言うと昭和清吾事務所はすっごいマジメですよ」と答えが帰ってきた。
 「えっそうなんですか。万有引力が一番マジメなイメージがありますけど」と再度聞くと、「万有引力は、音楽と踊り中心じゃないですか。昭和清吾事務所は、語り、言葉を中心に寺山さんを引き継いでいるんです」ということだった。
 なるほどー。
 ちょっと調べてみると分かるけど、都内だけでも寺山さんだけを演じる劇団がたくさんあって、毎日どこかで演劇をやっている。
 寺山さんの魂が、たんぽぽの綿毛のように、おびただしい数に分裂して、あちこちで花を咲かせていて、場所によって咲き方がそれぞれ違うということだろう。

 それで興味を持って、昭和清吾事務所のイベントを見に行った。
 昭和清吾さんの存命中に、渋谷のジァンジァンで、一人で「李庚順」という「長編叙事詩」を語りと歌で演じた時の音源がCD化され、その発売イベントということだが、内容たっぷりのイベントで、本当に行って良かった。

 場所は新宿のシアターPOOというところで、バーとしても営業しているところで結構狭いが、超・満員で立ち見も出る状態だった。
 ぼくは道に迷って開演時間ギリギリに行ったのだが、なんとか最後列近くに座れた。

 最初に、清吾さん存命時代の映像が流れ、メンバー紹介で「こもだまり、イッキ」と声を掛けると、舞台の手前から生きて歩いているこもだまりさんとイッキさんが「ハイ」と答えてスクリーンの前に登場するという、感動的な演出があった。
 で、こもださんとイッキさんが「このあとずっとシリアスな展開なので、ちょっとトークをします」と言ってトークをしている途中から、客席から現れた左右田歌鈴さんと麻宮チヒロさんが短歌の掛け合いをした。

 ここからは記憶があいまいなので詳しく書かないが、舞台と客席と、映像と生の演技と、短歌と音楽とセリフと音楽と短歌とが、渾然一体になったような演出で、とても楽しめた。
 こもだまりさんの、ギターの弾き語りによる短歌の詠唱や、百眼の音楽も担当されている、ロックバンドFOXPILL CULTの西邑卓哲さんの弾き語りもあった。
 イッキさんとこもだまりさんによる「李庚順」は、劇と朗読の中間で、動きはなく、セリフと歌だけで物語を紡いでいく形式で、だからこそ、かえって、物語やセリフがストレートに心に突き刺さってくるような感じがした。
 昭和の、貧乏で、田舎に住んでいる鬱屈した若者の青春が、リアルに迫って来る。「母殺し」の場面があって、後のトークで「お母さん殺しちゃったりしてすごくシリアスでしたが。。」的な話があったが、ぼくはそのとき、母を殺したくてたまらない青年にすっかり感情移入していて、やれ、やっちまえ、お母さんなんか殺して、閉塞した日常から脱出しろ、と思っていたので、爽快な感動があった。
 まあ、人によって受け止め方は違うでしょうが。。

 後半は「犬神抄」ということで、今年万有引力によって演じられた「犬神」をダイジェストして映像化したものが流された。
 音楽と映像は西邑卓哲さん、青蛾館の女型ののぐち和美さんが声の出演、稲川実加さんが映像出演。
 ところが、その映像にかぶせて、スクリーンの前でこもだまり・左右田歌鈴・麻宮チヒロ・倉垣吉宏・イッキさんによる仮面劇が演じられた。
 映像と生の人間のコラボで、これも大変おもしろくて感動した。
 ほかにもいろいろあったのだが、詳しくは下を見てください。

Air*Log:満員御礼)「われに五月を 第二章」2016.12.10

 終わった後は、舞台をバラしながら、バーのテーブルを元に戻しながら観客と役者さんが歓談して酒を飲んだ。
 この段階に来ると演劇と現実の垣根も取り払われた空間で、超絶楽しかった。
 おなかいっぱいの2時間。この集団はすごい! もっともっと見たい。