9月21日、水曜日は、武蔵小山のバー「月光密造舎」で開かれた、アブサン・パーティに行ってきた。
超・痛飲した。

「月光密造舎」は、コレクションハウスビル2階で月曜日から水曜日までやっているバーである。
前にも紹介した。

アブサンはスイス原産の、フランスで有名なお酒である。
ニガヨモギ(ツヨン)から抽出したエキスが溶かし込んでいる。
アルコール度数が50度とか70度とか平気でする。

50度や70度のお酒なんて、一つはウケねらい、一つはアル中御用達、一つはロシアの平原を犬ぞりで行く人が凍らせないため、という実用的な意味で作られたものであって、お酒の味がしないものだと、ぼくは独断と偏見で勝手に思っていた。
でも、アブサンを飲んでみると、ツヨンの香気と甘い味わいで、これぐらいアルコール度数があってもぜんぜん美味しい、むしろアルコールの刺激とツヨンの香りがあいまって独特の味わいを醸し出すものである、と分かって、自らの不明を恥じた。

ツヨンは何らかの油で抽出しているらしく、ストレートなアブサンでは透明な緑、黄色、まれに赤などであるが、バーテンさんに加水してもらうとエマルジョン(乳化)現象が起こって白濁する。
これがまた不思議で美味しい。
本来は専用の滴下器具があるらしいが、「月光密造舎」では化学実験用のこまごめピペットで女優の紅日毬子さん他店員さんが目の前で滴下してくれてまたこれが楽しみである。

アブサンはオランダの画聖ヴァン・ゴッホや、フランスの詩人アルチュール・ランボーが愛飲し、多くの大芸術を生み出し、でもその後、人生を破滅に導いたことで有名である。
ゴッホと言えばその芸術性と同時に、ゴーギャンに自分の耳を切って送りつけたという逸話で有名であるし、ぼくが一番好きなオヤジギャグ「アルチュール・ランボーはアル中で乱暴者だった」というのは、どこが素晴らしいかというと、実話であるということである。

アブサンはその後、法律で禁じられた。
これは酒やタバコやギャンブルを禁止するのが正しいかどうかという「愚行権」の問題である。
ぼくは文明国であれば、人の性癖を法律で禁ずるのは無理があると思う。
まあ難しい問題には立ち入らない。

ということで、ぼくは、アブサンというお酒が昔あったけど、いまは禁止されてもう飲めない、と思い込んでいた。
(代用にペルノーがあるのかと思った)
実際には何十年も前に、アブサンはツヨンの強度を法律で決めることで封印が解かれ、スイスやフランスなど各地で盛んに生産されているのであるが、寡聞にしてしらなかったのである。
ぼくはこの月光密造舎で初めて、いまもアブサンが飲めるということを知った。
今もこのお店でしか飲んだことがない。
だいたいぼくはお店で人に勧められてしか飲まない。
家や路上で飲む習慣がないのである。
それも、月光密造舎に来るまでは、食事時に飲む習慣しかなかった。
バー通いの習慣がなかったのである。
(ちなみに月光密造舎はフードも超おいしい。役者さんが副業でやってるとは思えない)

アブサンは、単純に強いお酒だから禁じられたわけではなく(であればウォッカや焼酎も禁じられてしまう)ツヨンのドラッグ要素が禁じられたものと思われる。
じっさい、今日生産されているアブサンを飲むと、気分が高揚する気がする。
コーヒーの強いやつみたいな。
それとダウン系のアルコールを一緒に飲むから、脳内がしっちゃかめっちゃかになる。
ぼくは芸術家ではないが、こういうのをまいにち痛飲していると、芸術のひとつもひねり出せるような気がするが、一方で人生が簡単に破滅しそうな気もする。
ぼくは日々、自分の才能の無さを痛感しているので、人生を破滅させるリスクがないから痛飲はしないのである。

しかし月光密造舎では、今回アブサン・パーティを敢行した。
「アブサンを飲みたい人は来い」というアナウンスのもとで会費3千円(アブサン以外のドリンク、フード代は別)を募って、希少なアブサンを買う。
人数が増えれば増えるほど本数が増える。
結果的に20人という大勢が集まり(せまいお店なのでギュウギュウ)、4本のアブサンを飲み比べることが出来た。

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ちなみに、ぼくは「月光密造舎」で、例のロック・シンガーのマリリン・マンソンがプロデュースしたという「マンサン」や、禁止前のレシピを最も忠実に守っているという「ル・シャルロット」など、アブサンをたくさん飲んでいる。
でも、このパーティで飲んだのは、全部はじめてのものだった。
アブサンはいっぱいある!



最初に飲んだのは、フランス、エミールペルノ社製「ブルジョワ」。

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名前に対してあっさりした飲みくちで、逆にくいくい飲んでしまえそうなところがコワい。

一杯ストレートでいただいて、二杯目は加水していただくという趣向で飲んだ。



二杯目にいただいたのは同じくエミールペルノ製「ペロケ」。

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72度と一気に強くなるが、ツヨンの香気も強い。
これはいわゆるザ・アブサン(ジ・アブサンか)という感じ。



三杯目にいただいたのが、アルテミジア社製バタフライ。

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フランス系のアメリカの人がボストンで作っていたお酒を、スイスで復元したという複雑な由来を持つ。

これが一番スパイシーで、いろいろなハーブの香りが強かった。
この日飲んだお酒の中では、ストレートではいちばん印象的。

四杯目が、エミールペルノ社製、ラ・パルテ・デザポート。

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日本人のアブサン好きのバーテンが、エミール・ペルノ社に依頼して作ったという、珍しい日本限定のアブサンらしい。
だったらもうちょっと「ゆかり」とか「えにし」とか「アブサン芸者」とか日本風の読みやすい名前にすればいいんじゃないだろうか。

これが、不思議。
最初、一飲みした印象では、「これがアブサン……?」と思った。
ハービーな香りがせず、シロップのような味わいがあったので、上質なウィスキーみたいだなと思った。
色も黄色(黄金色)で不思議な幹事。

これが、加水してもらうと、印象が一変した。
おいしいー!
なにこれー!!
結局おかわりを頼んだ。
(この日飲んだのは計9杯)
どこがどうおいしいか形容に難しいが、機会があったらぜひお飲みください。
(なかなか機会はないかもしれない……)

このあと、紅日毬子さんと、倉垣吉宏さんによるアルトーおよびランボーの詩の朗読や、劇団アニマル王子所属の大友沙季さんによるだんだん上手くなるオムライスを食べて、ハッピーハッピーな一夜だった。
お客さんが作ってきたピクルス(!)もおいしかった。

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ぼくは翌日、学生時代の悪友を家に招いて麻雀をしなければならなかったので、早めにおいとましたが、そうとう深夜まで乱痴気騒ぎが続いたようだ。
このバーがやっているコレクションハウスビルは「DIYマンション」という名目で前から有名だったが、存続について諸説あり、行ける人は早めに行った方がいいよ。