前にもこの話したけど、月に1回毛染めに、3ヶ月に1回ヘアカットに行っている。

The Clifford Hair Restorer. Wellcome L0031644
 前は両方月イチ、同じ店でやってもらっていたが、月1回カットはやり過ぎだし、両方いっぺんにやると高い。
 あと、カットすると髪が少なくなるので、毛染めがしづらくなるのだ。
 いろいろ考えて、バラバラの激安店でやることにした。
 ヘアダイはヘアダイ専門店チェーンのSPEEDY、カットはファミリー美容室SEASONSだ。
 SPEEDYはブローを客任せにすることで、SEASONSはシャンプーを付けないことでコストカットを計っている。

 これで安定していたのだが、近所を散歩していたら、おばさんがやっている、おばさんが行くような美容室のウィンドウに「レタッチ(根元染め)1800円」と書いているのを見つけた。
 近所の美容室行ったことありますか。
 ものすごくクローズドな、一見さんお断りのオーラが漂っていて、入りにくいことおびただしい。
 近所の駅前の、木のドアのスナックと同じぐらいである。
 だいたい近所のおばさんだけでまかなえているし、急に予定外の客に来られてもと向こうも思ってると思う。
 テレビ番組「ももクロchan」に出てきた「玉井美容室」のような感じである。

 でも、「レタッチ1800円」という手書きの掲示があえて出ている。
 これは、新規顧客を呼びこもうと言う作戦ではないだろうか。

 レタッチとは何か。
 根元だけ染めるものである。
 髪の毛は根元から生えてくるので、月に1回もカラーする場合は根元だけで良い。
 染められた髪の毛は伸びていって、順繰りにカットで切り捨てられる。
 もっとも、ぼくなんてショートカットなので、レタッチと全体染めの区別はそんなにない。
 これはロングヘアーの女性だけ値段を変えればいいんじゃないだろうか。

 それにしても、1800円は安い。
 SPEEDYよりわずかに安いのである。
 しかも、家のド近所だ。
 歩いて2分もかからない。

 行ってみることにした。
 おばさんが店長(先生と呼ばれている)、お姐さんが店員の、2人でやってるらしい。
 「レタッチ、お願いしていいですか」
というと、恐れていたように店内の空気が凍りつき、2人の店員と2人の客に注視された。
 「えっと……今日はもういっぱいです」
と「先生」が言った。
 「明日はどうですか」
と言うと、お姐さんの方が
 「明日は……ちょっと待ってくださいねえ」
と言って、大福帳のようなスケジュール表を繰り始めた。
 ちょっと前の、ジャックナイフのように尖っているおいらだったら、
 「そんなに大変ならいいです」
と捨て台詞を残してその店を去るところではあるが、疲れていたので、ぼうっと待っていた。
 「明日、午後3時ならいいですよ」
 だそうだ。人気あるな近所の店!
 「じゃ、明日の午後3時に来ます」

 それで本当に翌日の午後3時に行ってみた。
 椅子が昔の床屋みたいに超・機械式で、フカフカで気持ち良い。
 「本を読みますか」
と言われたが、女性セブンとか読みたくないので断って、iPhoneで小説を読む。

 そこからは別に変わらない。
 ビニールのケープを掛けられ、アルカリ性のヘアダイ液を塗られる。ぼくはほぼ全部染めに近い。
 「痛くないですか」
と聞かれる。
 実は、他の、最新のナウい店では痛いことがたまにあるのだが、この店はぜんぜん痛くなく、特にやさしい感じがした。
 おばさん相手だから弱めてあるのだろうか。

 それから待たされる。
 「お飲み物は何になさいますか」
と聞かれるので、コーヒーというと、焼き物の小さな湯のみに入れて供される。おいしい。
 背の高い小学生の娘さんが出てきて
 「コンニチワー」
と挨拶される。なごんできた。

 iPhoneで小説を読んでいると、お時間ですと言って流される。
 シャンプー台の椅子も超・機械式で、ロボットアニメみたいに電気じかけで上下するのがおかしかった。
 シャンプー、リンスと、まあ特筆すべきことはない。
 びっくりするのが顔の周りを激しい匂いのする化学薬品で拭かれることだ。
 さいしょ何かの間違いかと思ったが、何回行っても同じだから、昔式の正しい方法なのかもしれない。

 ここで、髪の毛を乾かすと5百円と言われる。
 そういう仕掛けだったか。
 ドライヤーごときに5百円も出すと前に行った店の方が安いし、家まで歩いて2分だったし、特にその店にものすごいブローテクニックがあるという感じも受けなかったので、断って、濡れた髪のまま帰宅し、部屋でブローした。
 別に問題ないので、このまま通おうと思う。