7月30日がいわゆる土用の丑の日だが、日本人に珍味として親しまれているうなぎ(鰻)が絶滅の危機だと言う。

jpg_small
 うなぎというのはヌルヌルした細長い魚で、川魚であるが海で産卵、孵化を行う。海から上がってくるときは小さなちいさなシラスウナギである。6センチ、重さ0.3グラムという白魚のような稚魚だ。
 ウナギの産卵場は世界に数か所しかないらしく、日本のうなぎはマリアナ海溝の西方沖で生まれるそうだ。それから海を漂って、生まれた川を遡上してくる。なぜそんなに遠くまで卵を生みに行くのか、なぜそんな小さい稚魚が生まれた川に戻ってくるのか、そのメカニズムは分かっていないらしい。アリストテレスなどはウナギは泥から生まれると思っていた。

 天然モノと養殖モノがあるが、養殖も完全養殖ではなく、故郷の川に戻ってきたシラスウナギを海岸で網で掬ってとる。このシラスウナギ漁は専門の漁師ではなく素人が網を持ってきて副業で行う。1匹200円で、一晩で20万も稼ぐ(1000匹も掬う)人もいるというが、専門の漁師がいないところを見ると、安定した漁獲が見込めないということだろうか。

 卵から孵化させる完全養殖も、実験室レベルでは成功しているが商業化はされていない。実験室レベルで成功しているといっても、いま確立しているのはコイやハクレンと言った他の魚から生殖腺刺激ホルモンを取って卵を生ませる、サメの卵を試料に使うといった、他の魚の犠牲に立った方法で、商業化はなかなか難しいそうだ。

 ぼくは父に連れらてて川でフナを釣っていた時、うっかりウナギを釣ったことがある。ぼくの父というのが器用な人で、カッターナイフで割いて蒲焼きにしてくれた。あれはうまかったなァ。

 ニホンウナギは2014年に国際自然保護連合から絶滅危惧種に指定された。でも、どうせ庶民の口に入るのは養殖モノだから問題ないだろうか。これが違うということだ。上に見たように、現在商業化している養殖ウナギも天然物のシラスウナギを取ってきて育てるから、養殖モノを食べることも絶滅に手を貸しているのである。

 と、いうことを最近とみに聞くようになってきたが、一方で世間はうなぎが溢れている。それどころか、最近になって以前より溢れているような気がするのである。まず、近所の牛丼屋「すき家」にもうな丼がある。食べてみたが、庶民の口にはまごうかたなきウナギである。昔は安物のうな丼はウナギが小さかったりしたのだが、すき家のウナギはまあまあ大きい。

 さる7月4日に、ぼくも出演したテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」でウナギの特集をやっていた。東京・上野のバイキング店ではウナギの食べ放題フェアをやっている。正調の蒲焼きの他にうなぎのドーナツ(?)、うなぎのゴーヤチャンプルーなど10種類の変わりウナギ料理が食べられるそうだ。これ、おかしいと思わないか。絶滅の危機にひんしていて、値段も高騰している食材を、なぜわざわざ昔は食べなかった形で食べないといけないの? 異常じゃね?
 同番組では、問屋直営の店が卸を通さずに安い値段のうなぎを売っているとか、セブンイレブンが2500円のウナギ弁当を売ることにした、今のお客さんは本物志向だからコンビニの枠を超えないといけない、みたいな話をしていた。シメは「うなぎ商戦、夏本番というところですね」みたいな感じ。
 驚いた。
 てっきり「ところがウナギはレッドデータブックに載っているれっきとした絶滅危惧種。このような商戦が、ウナギを危機に晒しているのではないでしょうか…」的な展開になって、学者とかが危惧の念を語るものだと思っていたのである。
 そうではない。ウナギのバイキングとか、コンビニ弁当とかいろいろあってすごいですね! いまウナギが熱いですね! という記事で終わってしまったのだ。大丈夫か。

 数日後に別のチャンネルでウナギの特集をしていた。ここがすごいよ日本人みたいな、外国の人が日本の工場を見学してスゴイ、スゴイと絶叫するみたいな最近よく見る例のあの感じの番組で、日本の蒲焼きマシーンがいかにすごいか、日本人のウナギへのこだわりがどれだけスゴイかみたいな特集をしていた。いやでも絶滅させたらおしまいですから!! 外人の人注意してくれよ!!

 ツイッターで見たが、アメリカにリョコウバトという鳥がかつて50億匹しかなかったが、100年ちょっとで乱獲によって絶滅したそうだ。絶滅寸前のハンターの盛り上がり方がすごかったらしい。ニホンウナギに似ている。

 ウナギってそんなに食べたいですか。いや、食べたらおいしいけど、食べなかったら食べないで生きていられる。何ヶ月も食べないことがある。何千円もするようになってからはなおさらだ。それで欠乏する栄養素というのは特にない。
 他のもので代用が効くと思う。カニカマというのはぼくなんかが小さい頃は「アハハ、カマボコをカニそっくりにしてるよー。おかしいね」と笑っていたのだが、いまはシャレにならないほどそっくりになってきた。なまなかのカニよりカニカマの方がおいしい時がある。日本人のスゴイ技術をそこに生かせばいい。
 似たような、もっと取れる魚で蒲焼きを作って欲しい。アナゴでも、カマスでもいい。研究でナマズをウナギそっくりに調理できるそうだ。ナマズを大量に獲ってもいいのかどうか知らないが、そういう研究は勧めて欲しい。でもサンマの蒲焼きとか、缶詰で食べてもおいしいから、料理屋で新鮮なサンマをおろして真剣に調理したら、うなぎとは違うけど、またおいしい料理ができるんじゃないだろうか。サンマの蒲焼き丼を出す店が周囲になくて、すき家がうな丼を出しているのはおかしい気がする。

 先に述べた通り、ウナギは生物学的にも謎が多い、不思議な生き物である。はるばるマリアナ海溝から、わざわざ故郷の日本を目指して泳いでくる稚魚を、素人が一網打尽にするのはかわいそうじゃないだろうか。ぼくは禁漁でいいと思う。とりあえず市民レベルで無理に食べること、獲ることをやめましょう。