元CHAGE & ASKA(チャゲ&飛鳥)のASKAさん(飛鳥涼さん)が少し前に発表した手記がある。
 もともと書籍するはずだったとおぼしい、結構なボリュームがある文章である。

Asuka Nara 2009-5-23
 面白い。
 内容をかいつまむと、
  *ロンドンのクラブでエクスタシーというドラッグを勧められた経緯
  *日本で暴力団関係者と心ならずも交際した経緯
  *日本で自分が複数のドラッグを経て覚醒剤を使うまでの経緯
  *集団ストーカーによるインターネット盗聴(盗撮、ネット傍受)との戦い
  *週刊文春との戦い
  *自らの逮捕、離婚、判決、治療施設について
 というものである。

 ASKAさんは自らが長年ネットストーカーに盗聴を受けていると主張している。
 で、そのように主張する人はすぐに心の病にカテゴライズされることも自覚しているが、自分は実際に被害を受けていて、心の病ではない(治療施設にも入ったが、治療の必要はなかった)と主張している。
 ぼくは、この盗聴はありえない、ASKAさんはやはり心の病で、治療された方がいいと思う。

 ASKAさんは複数の暴力団関係者と偶然、知らずに知り合って関係を続けたと書いている。
 一方で、剣道の先輩である警察関係者とも、個人的に付き合いがあって盗聴について調べてもらったとも書いている。
 この時期が重なっているのがおかしい気がする。
 もしこれが真実なら、警察関係者を頼って暴力団関係者を排除できたのではないか。
 これが少し理解できなかった。

 上記の2点が、この文章についての疑問点である。
 この疑問点が解決しなければ、この文章が書籍として出ることはありえないと思うし、ネットで読む人は批判的に読むべきだと思う。

 しかしながら、それを置いても、抜群に面白い。一気に読んだ。

 まず、トップ・ミュージシャンとしての音楽に関する文章が面白い。
 ぼくはASKAさんの音楽があまり好みではないが、それにしてもトップ・ミュージシャンであることは確かだろう。
 ソロとCHAGE & ASKAの違い、アルバムとツアーの関係、MTVアンプラグドについて、「利き声帯」についてなど、真に迫る文章である。
 ここまでトップのミュージシャンで、文章力がある人はそうそういないのではないか。
 もしこの人がシラフで、ちゃんと書店で売れる本を書いていたらと思うと、惜しくてならない。

 あと、暴力団との関係に我知らず引きずり込まれていく苦悩も面白い。
 飯島愛さんとの悲しい友情の話もホロリとする。
 (この話も盗撮、盗聴が絡むので読みこなすのが難しいが…)
 全体として、一人のプロフェッショナルのドキュメンタリーであり、同時に一人の弱い人間が暗黒に引きずり込まれていくピカレスク・ロマン、スリラーである。誤字の多いたどたどしい文章ではあるが、圧倒的な筆力がある。たぶん小林信彦さんであれば絶賛したんじゃないだろうか。
 いわくつきの文章であるからリンクを張ることはしないが、検索すると簡単に見つかるから興味のあるかたはお読みください。

 それで、この文章の最後に、非常に感銘を受けた部分があった。

条件反射制御法というのがあります。精神科医の平井愼二先生が発見した薬物に対する欲求の完全消去法です。治らないと言われている薬物治療の希望の光です。人間は思考の動物だと思っていたのですが、そうではないようです。無意識の行動を第一次信号系。思考によっての行動を第二次信号系といいます。
条件反射制御法によると、普段人間は「第一次信号系で行動する」となっています。つまり、考えて行動していないというのです。思考の第二次信号系で定義づけられたものは、やがて「それはそういうものだ」とフォーマットされ、第一次信号系にデータが移行されます。移行された瞬間から、思考しない行動の連鎖が始まります。何回やっても上手くいかなかったことが、やがて考えなくても自然に上手く行くことを例にすれば分かりやすいでしょう。いま私は「薬物はダメだ」と第二次信号系に働きかけ制御しています。いつかそれが当たり前にダメなものとして第一次信号系に移行されることを待っています。違法薬物とは知らないで始めたモノが、脳に染み付いた代償はあまりに大きすぎました。これからみなさんの信用を得るためにも、条件反射制御法を続けていこうと思っています。

 この文は書き抜いて自分にメールした。
 ぼくはなんのドラッグの依存症でもないが、これが、人間がなぜ分かっていても愚かなことをしてしまうのか、愚かなことをやめて賢いことをするように、自分を鍛えるのにはどうすればいいのかという、ぼく自身の以前からの悩みをスッキリと解決する端緒となると思ったのだ。

 人間はほうっておくと、パッとおいしいものを食べてしまう。
 勉強をしないでマンガを読んでしまう。
 もうちょっと起きてがんばった方がいいのに寝てしまう。
 それはみな、第一次信号系によるものだ。
 つまり、目先で気持ちがいいことを優先してしまう。

 これは、人間は動物である以上仕方がないことだそうだ。
 キツイけどやらなければならないことをグズグズ先延ばしして、睡眠や怠惰、手っ取り早く楽しめる娯楽に走ってしまうのは、人間の脳を苦痛から守るための、原始的だが合理的な判断だと言う。
 逆に努力は必ず報われるものではない。間違った努力を延々としてしまったら、心身は疲弊し、時間は失われるのに利得はない。だったら休んでいたほうがマシだ。

 にもかかわらず、合理的な努力は続けなければならない。
 おいしいものを端から食べていたら、太って、糖尿病になって、死んでしまう。
 このとき「太ったら痛い目に合う」ということを、頭(第二次信号系)で理解しているだけではダメで、心(第一次信号系)にまで納得させるように、訓練しなければならないのだ。
 そのためには、記録、反省、向上のための動機付けというPDCAサイクルが必要だ。
 (ただ、糖尿病にならなければ太るリスクが納得出来ない、依存症にならなければドラッグの危険性が理解できない、というのは本能に忠実過ぎるので、そこにもう一段人工的な賞罰のシステムを取り入れなければ人間として情けないと、ここまで書いてきて思った。。)

 ぼくはさいわい暴力団関係者の方とお付き合いがないし、ドラッグの入手ルートも知らないが、ずいぶん欲望に弱い。
 具体的には過食と過眠に悩まされている。
 人生楽しむためにあると思っているから(それはいい考え方だと思うが)、自分ちゃんを真面目なことに駆り立てるのに、毎日苦労しているのだ。
 ASKA氏の手記に、それを解決するヒントがあると思った。