持病を持っているので、月イチで通院して薬を処方してもらっている。
 面倒だ。

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 以前から「お薬手帳」というのを出せと言われていたのだが、面倒だから出さず、シールだけください、と言っていた。
 シールをもらって、自宅でマメに手帳に貼るかというと、せず、そのへんにうっちゃっていた。
 情報が拡散する、それも紙ベースのデジタル情報に伝播するのが、なんとも気持ち悪かった。
 手帳の大きさも半端であり、病院に行くたびに忘れそうな気がするし、すぐ失くしたり、汚したりしそうな気がする。
 ぼくは病的に、いまだとナントカ障害の病名が付くと思うぐらいものの管理、部屋の整頓ができないほうなのでこういうのは苦手だ。

 ところが、この春(2016年4月)から、お薬手帳を持っていない人は薬の料金が高くなることになった。
 薬を出してもらっている人はお手元の調剤明細書の薬学管理料という区分の下の薬剤服用歴管理指導料2というのをごらんください。これが50点の人はお薬手帳を正しく出していないために高く取られている。
 正しく出している人は38点で、12点安くなっている。1点10円だから、120円違うと思いきや、ぼくは3割負担なので40円違う。

薬剤服用歴管理指導料の変更でお薬手帳がない人は会計が高くなる?

 40円は大きい。チロルチョコが2個買えるのである。(チョコなんか食べてるから糖尿病が治らないんだよ!)むざむざ取られるのも業腹だ。だからぼくもお薬手帳を持っていくべきなのかなあ、と憂鬱になっていた。

 ところが、ここに救世主が現れた。EPARKという組織(?)が運営している? iPhoneのお薬手帳アプリというのがあって、これをインストールしたiPhoneを持っていけばお薬手帳を持っていたのと同じことになるという。

 EPARKという会社、聞いたことがある。
 前は美容院の予約に使っていたが、携帯メールがないと使えないということで、使わなくなった。今は美容室の予約はGmailでも使えるホットペッパービューティーを使っている。
 しかし、同じEPARKが、スマホアプリとの連携によって不死鳥のように蘇ってきた。
 EPARKお薬手帳にせよ、ホットペッパービューティーにせよ、こういうの、Tカードなんかと一緒で、プライバシーが、ビッグデータで、いろいろ危険だから、高木浩光さんのような識者がたまに警鐘を鳴らされるようだが、大丈夫だろうか。
 服薬履歴なんか個人情報の固まりである。
 ちょっといろいろ検索を掛けてみたが、この件で疑義を挟んでいる人はまだいないようだ。

 利用規約を調べてみると「処方箋情報以外を」、「本社及び各サービス運営事業者が」、「お客様の同意に基いて使用します」ということで、ちょっと心許ない。

株式会社EPARKヘルスケア

 ぼくはこういう小さい字なんかいちいち見てないので詳しい脅威については分からない。識者の精査を期待する。

 とりあえず40円が惜しいので、遣ってみることにした。

 さっそくかかりつけ薬局のI薬局を登録しようとしたが、検索しても出てこない。
 EPARKお薬手帳サービスに加盟してないらしい。
 地域で検索すると、少し離れたN薬局しか出てこない。
 I薬局は穴場的な立地で、いつも空いていて、薬剤師さんが美人なので贔屓にしていた。一方N薬局は遠いし、駅前のチャラいドラッグストアで、いぜんあまりにもセコいポイントカードシステム(200円で1点で500点貯まると500円の金券をくれるとかいうやつ)で大量の個人情報を書かせようとするので、業を煮やしてバイトの店員とトラブルになったことがある。
 まあしょうがないからN薬局だけは登録した。

 通院日が来た。病院で診察してもらい、処方箋をもらって、まずはI薬局に言ってみた。
 お薬手帳はお持ちですか、と聞かれたから、「このイーパークっていうスマホのアプリでお薬手帳の代わりになりますか」と聞いてみた。
 美人の薬剤師さんは「しょうしょうお待ち下さい」と言って引っ込んでしまい、代わりにおじさんの店長? 局長? が出てきて「ウチではやってないですねえ」と言われた。
 「じゃあ、出直します」と言って、I薬局を後にした。

 気が進まないけどN薬局に行った。
 「ここ、イーパークのお薬手帳アプリに対応してますか」とおばさんの薬剤師に聞くと「ハイハイ、これですね」と言って手続きをA4の紙にプリントしてラミネートしたのを出してきてくれる。ここでぼくのN薬局に対しての好感度がグーンと上がった。

 まず、10桁の「患者番号」を振り出してもらい、それを登録する。薬剤師の人がメモ用紙に10桁の番号を書いたものを手渡してくれる。
 あらかじめアプリにN薬局を登録しているので、薬局を選択すると「お薬手帳申請」というボタンがある。それを押すと番号を入れるUIが出てくるので入力する。今回ぼくがやった手続きはこれだけだ。
 (アプリをインストールするときに自分の個人情報をいろいろ入れたような気がするけど、忘れた)

 一方、薬局の方で処方箋を処理して薬を出してきた。薬剤師さんが「いま、データがスマホに飛んだはずです」と言う。
 「お薬手帳」というボタンを押すと、確かに今日の日付、いま来ている薬局、処方された薬が出てきた。こいつは便利!

 会計のときに「これで、お薬手帳を使ったことになりますか」というと、ハイと言われたので、「調剤明細書の中で、お薬手帳が安くなったことが分かりますか」というと「ええと、この薬剤服用歴管理指導料2が…」と言われるが、ここは相変わらず50点になっている。
 こんな項目細かく見るの初めてだけど!

 すると、別のおばさんの薬剤師が来て、「えっと、これは、半年以内に同じ薬局に2回行く時、2回目から安くなるんです」へぇー。

 こういうことらしい。

 *(4月1日以前から)過去半年以内に紙タイプのお薬手帳を持って薬局Xを使ったことがあり、紙タイプ、または電子タイプのお薬手帳を持って薬局Xを使った場合は、40円安くなる
 *古いお薬手帳を持ってきても、薬局Xに過去半年間通っていなければ、安くならない
 *薬局Xに過去半年以内に利用があっても、今日からお薬手帳(紙、電子いずれか)を使いはじめるときは、安くならない

 へぇー。
 40円安くするの大変だな!

 まあ、40円が惜しいだけじゃなくて、自分の服薬履歴を管理しておくのは意義があることだし、災害時に病院がぶっつぶれてもお薬手帳さえあればお薬を処方してもらえるということだから、やった方がいいね。スマホだと絶対になくさないし、忘れない。

 「薬を処方してもらったら明細書のQRコードをスキャンするってネットに書いてたんだけど…」と言うと、「それはEPARKに非加盟の薬局さんの場合ですね。うちの場合はいまホストコンピューターからデータが飛んだはずなので、もう登録されてますよね」。「ああ、確かに」なるほどなー!

 ということで、無事薬を処方してもらったあとで、I薬局に行ってみた。相変わらずお客さんが全然いない。
 美人の薬剤師さんに「今日は面倒だからNで処方してもらったけど、EPARKに加盟していなくても、明細書にQRコードを印刷してくれれば、これ使えるみたいですよ」と言ってみた。すると「ううん、最初に薬局登録をしていただくんですが、その検索画面に出てこないみたいなので…」と言う。言われればそうだ。
 「とりあえず、ここ一番家に近いから、出来るならここで処方してもらいたいけど、紙のお薬手帳なんてすぐなくしちゃうし、絶対忘れちゃうから、スマホでできないなら、悪いけど、Nに行くしかないね。でも、そんなことで地域の薬局があそこは使える、あそこは使えないってなるのは、おかしい気もするね」と言うと「そうですね…調べておきます。次回は何日に来られますか」というので、通院予定日を教えて、I薬局を去った。

 スマホ歩きとか、出合い系淫行殺人とか、とかくスマホというと悪い面ばかり強調されるけど、電子お薬手帳は明らかに人間に取っても社会にとってもいいものだ。これで服薬履歴が管理できれば、健康管理に役立つし、医療費の削減にも繋がる。
 一方で、これが特定の企業に独占されたり、薬局の囲い込みに援用される現状にも、また疑問が残る。
 個人情報も、たとえばマイナンバーの登録を求められたり、Tカードの会社(プライバシーマーク認定を返上したそうだ!)あたりが参入してくると、不安は拭い去れない。服薬履歴が保険会社に流れたりしたら、心良くない。

 いぜんから、Tカードの問題と付随して、服薬履歴や病歴が保険会社に流れることが個人情報の脅威と言われていた。
 商店街の薬局で心臓病の薬を買って、Tポイントを付けてもらったとする。
 で、次の日医療保険に入ろうとすると(民間の医療保険は掛けるだけ損だと言う話だが、TPPでどうなるか分からない)、心臓病の薬を買ってることがバレて入れなくなったとする。
 この場合、保険会社の立場に立てば、患者の情報が正確に把握できて不利な契約を結ばずに済んだ、患者が病気を隠すのはおかしいからこの情報流用は正義に叶っている、という主張が成り立つだろうか。
 それとも、患者の立場に立って、人間はプライヴァシーをコントロールする権利があるから、薬局と保険会社がポイントカードなんかを使って裏でつるんでいるなんて人権侵害だ(いくら登録時に小さい字で説明して、同意したことになっていたとはいえ)という主張が成り立つか。
 詳しいことは専門家の議論を待つしかないが、庶民感情としては、保険会社とユーザーは一種のギャンブルをしているわけで、一方的に保険会社が顧客の情報を知るのは不公平だなあと思わないでもない。少なくとも気持ち悪い。

 EPARKは処方箋情報は流用しないと謳っているので、また別の話だが、この点も注意したい。