せんじつインターネットを見ていたら、とあるベストセラー作家の方が、印税3%で仕事をオファーされて、断ったと言う話がバズっていた。印税は普通10%である。頼む方も、言うだけならタダだから頼むだけ頼んでみたって感じだろうか。編集者も含め、サラリーマンならありえない。「君の月給、毎月30万円だけど、今月は9万円で働いてみないか」ってありえないじゃないですか。その点フリーランスは時価だから、値切るのも釣り上げるのも自由だ。

Writing ball keyboard
 ぼくみたいなアマチュア零細ライターのエピソードを並べて書くのもおこがましいが、昔、400字原稿用紙1枚100円で書いてくれませんかと言われたことがある。日本を代表する出版社の案件だ。普通の本はだいたい20万字ぐらいあると思われる。原稿用紙500枚ぐらいだ。すると本1冊5万円である。当然断った。そんな時間あったらアルバイトするよ! ていうか受ける人いるんですか。わざわざ神保町の喫茶店に呼び出されて、名刺渡されて、打ち合わせして1枚100円って言われたら驚くよ。その編集さんだって時給2000円ぐらいは会社からもらっていると思う。1時間20枚書けますか。書けないよ〜。

 ライティングのセミナーで聞いた話だが、常識はずれの安い値段をオファーされて文句を言うと、「タダでも書くって人がいるんですよ」と言ってくる人もいるそうだ。だったらその人に書いてもらえばいいじゃないですか。まあ、そんなひどいことを言う編集さんもごく一部であろうが、ひどい話の方が面白いので、ブログやセミナーなんかですぐ広まる。

 出版不況だからしょうがないんだろうか。でも安い値段で書く人を探して、安物を作っていたら、読者は古典や、古本で手に入る、いいものに流れるから、結局自分の首を締めることになるんじゃないかなあ。

 ちょっと趣が違う話だが、世の中便利になって、クラウドでWebライターの仕事ができるようになった。相場は1字0.5円だそうだ。400字200円。下手をすると1字0.1円という案件もあると言う。でも、この話は割りと昔から聞くから、その値段で受ける人がいっぱいいるんだろう。仕事をしないでもいい、家にいて時間が空いている人が、暇つぶしに書いている。もっとも、こういうのは出版社が出している紙の媒体とはまた筋が違っていて、誰が買うかというと、アフィリエイトブログをやっている人が買う。

 さいきんWebを見ていると、「なんでわざわざこんな文章を発信するんだろ…」と思うのが多い。じゃあ読まなきゃいいだろと自分でも思う。でも、そういうのに限っていわゆるSEO対策が行き届いていて、タイトルとか、写真とか、出すタイミングが絶妙で、ポータルサイトとか至るところに、普通の新聞記事やなんかと混ぜてリンクしているので、引っ掛かって無意識にクリックして読んでいるのである。一通り読んでしまってから、しまった、これインターネットによくあるしょうもない例のヤツだ、と思う。そのときにはもう広告代はサーバー主に行っているのだろう。特に業者の名前は出さないが、Facebookに広告を出している「ニュースブログ」が怪しい。

 数年前まで、Webメディアを称揚する理由として、「出版や電波などの旧メディアは圧力に屈して書きたいことが書けない」的な言い方があった。でも、いまどきのWebはもっとひどくて、悪意なく、そもそも書きたいことがない人が、1字0.1円でなかば無意識にひどい文章を書いているのだ。
 しょうもない人が、しょうもない文章を書いているだけだから、無視すればいいとも思うけど、悪貨は良貨を駆逐する。情報洪水によって、意味のある文章が見つけにくくなるのである。インターネットは便利な発明かと思っていたが、あっという間にこんな状態になってしまった。
 最初から悪意のある文章や、正義に反する文章を確信を持ってやっているなら、同じ迷惑でも気骨を感じるが、ただ字さえ書いてあればいい、Webをクリックされればいいと思う人がいて、なんとなく感動っぽい話や、健康にいいとか悪いとか、どこかで聞いた話が垂れ流されている。これは悲しい状況だ。

 まず、FacebookやGoogle、ポータルサイトの人は、アフィリエイトブログやコピーブログを排斥して欲しい。普通の人の普通の情報を特に意味もなく検閲まがいのことをしているんだから、それぐらい簡単だろう。
 次に、書く方はある程度ユニオン的なものを作って、1字何円に満たない仕事は受けない、という姿勢を打ち出した方がいいんじゃないだろうか。「タダでも書く人がいますから」ではないが、0.1円で書く人がいる以上、そして何でもいいから字さえ埋まっていればコンテンツだと思う人がいる以上、こういう無駄情報が大量に流れて、普通にやっているライターに値下げ圧力が掛かることは止まらないだろう。