今日は月蝕歌劇団、新春連続公演の2で、高取英さんのオリジナル脚本演劇『少年探偵団vs.怪人二十面相』を見て来た。
 期待いっぱいで見に行ったのだが、予想よりも面白かった!

Rampo Edogawa 02
 江戸川乱歩と言えば日本の探偵、推理小説の第一人者、推理小説界の手塚治虫である。
 たいてい男の子は探偵モノが好きだ。ぼくは小学生の頃、ポプラ社で脚色したホームズが好きで、学校の図書館で借りた本を学校の裏で読んでいた。「体育館の裏で」と書きたいところだが、ぼくはなぜか給食室の裏の油缶に座って読んでいた。今も子供時代に読んだ探偵小説のことを思うと、食用油の匂いを思い出す。

 江戸川乱歩には2つの顔がある。
 ひとつは『陰獣』、『屋根裏の散歩者』、『芋虫』のような大人向けのSM、エログロ、怪奇小説の作家であり、もうひとつは『少年探偵団』を書いた少年向けの探偵冒険小説の顔だ。どっちも同じ明智小五郎が出てきて、世界は地続きなのだ。これって、ものすごいエロいというか、ヤバいことではないだろうか。江戸川コナン君が大人向けマンガに出て来るようなものである。でもWikipedia「怪人二十面相」によると、大人向けの小説に出て来る明智の方が先で、講談社の『少年倶楽部』の編集者が、「少年が事件をバンバン解決する従来の少年向け推理小説は不自然なので、大人の探偵が出て来る少年向けの小説は作れないか」と話し合った時「それなら明智小五郎だ」と言って企画を乱歩のところに持って行ったそうだ。

 月蝕歌劇団でも繰り返し上演されている寺山修司の戯曲にも、『少年倶楽部』の思い出や、少年探偵団が繰り返し出て来る。でも、その半ズボン姿の少年探偵団は、ぼくたちが子供の頃に読んだポプラ社の少年探偵団とはちょっと違う、あやしい、エロい味付けがされている。『盲人書簡』では小林少年が明智小五郎に押し倒される。でも、それはたぶん乱歩がもともと心中に抱いていて、少年向けの小説に隠し込んでいたイメージである。

 乱歩の映像化というと、石井輝男の『恐怖奇形人間』をはじめとして、いろいろな短編、中編を1作品に練り込んでいるのが多い。どの作品のどの部分を、どの順番にはめ込んでいるかが、脚本、演出をしている人の心中を映しているようで面白い。今回の『少年探偵団vs.怪人二十面相』も、ふんだんにいろいろな作品を盛り込まれている。次の行からネタバレになる。







 警告したからな!
 今回の作品で面白かったのは、乱歩の2つの顔、大正時代のエログロナンセンス、デカダンのどぎついアダルトな世界と、少年探偵団の奇想天外、奇怪痛快、そのまま大真面目に演じてしまうと笑ってしまうような少年小説の世界を、あっけらかんと、堂々とそのままくっつけているところだ。明智先生はエロい。怪人二十面相もエロい。でも、同じ世界を少年探偵団が冒険する。これは月蝕歌劇団っぽいし、月蝕歌劇団ならではだなあ、と思う。
 昔の東京は怖かった。
 帝都と言っていながら、夜が真っ暗で、空が真っ黒で、川に落ちたら死んでしまうような場所で、人さらいや物取りが跋扈していたのである。いまはどこに言ってもコンビニや牛丼屋の灯りが煌々としているが、地下で演じられる小劇場には、まだ闇があって、そこにいるのがワクワクして面白い。
 子供の頃に読んだ少年探偵団の一節で、妙に覚えているところがあって、小林少年が闇の中に変な図形が舞い踊っているのを見る、という場面だ。「みなさんも急に闇の中に入ったり、目をつぶると同じものを見ます。あれは、目の神経の作用ですね」という文章があった。ぼくは今でも、急に暗いところに入ったり、目をつぶったりして、光る糸くずのようなものが乱舞するのを見ると、いつもこの乱歩の一節を思い出す。
 今日も舞台が暗転して、探偵が懐中電灯で客を照らしたりしているとき、同じ一節を思い出した。

 今日はスペシャルキャストで、みんなのアイドル百津美玲さんが出ていた。この役どころも面白くて、いつもの百津さんともまた違う感じで楽しめた。真ん前で見られてラッキーだ。土曜の昼も出るそうだ!
 あと、今日のセリフで、xxxxが第四の壁を壊して「見ろ、観客が戸惑っている」というのがすごくツボだったw
 また観に行く。

 ※余談だが、下の方にアマゾンのアフィリエイトを貼っている小林信彦の『回想の江戸川乱歩』という本はおすすめ。乱歩のもとで『宝石』、『ヒッチコックマガジン』を編集していた小林氏が乱歩の思い出を書いたもの。小林氏は乱歩が彼のことを「小林君」と呼ぶのがおかしかったそうだw