日付変わって昨日、11月27日は下北沢OFF-OFFシアターに劇団☆A・P・B-Tokyo「醒めて歌え・青少年のための無人島入門」を見に行った。

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元・月蝕歌劇団の高野美由紀さんが演出、主演をつとめる、寺山修司の作品を演じ続ける劇団だ。
ぼくの空前の自分内観劇ブーム、寺山修司ブームのきっかけになった劇団で、いつも見ている。
今回は女優の飯塚美花さんがツイッターで告知されていたので、リプライで予約してみた。

新丸子から下北沢ってどうやって行けばいいのだろうか。
どうしても東横線の渋谷駅で降りたくないので、今日は武蔵小杉まで歩き=>南武線=>登戸=>小田急という方式を試した。
小田急は下りでも結構混んでいたが、まあまあ快適だった。
今度は副都心線=>明治神宮=>千代田線というのも試してみようかな。

劇場まで迷わずに行けるか不安だったが、南口を出ると駅の目の前でビックリ。
逆に時間が余って、受け付け前に並んでしまってご迷惑を掛けた。
それでも予約で結構な人がいて、ぼくは25人目ぐらい?だったが、最前列の右端が空いていてスッポリそこにおさまった。

客席後方に先日の月蝕歌劇団公演に出ていた元・唐組の藤本拓也さんと、先日山崎春美さんのライブにも出てきた新大久保鷹さんが来ていて、ご挨拶できた。
前からAPB、後ろから月蝕やばいなー!

今日は感動したので、結構ネタバレになってしまうが、30日月曜日までやっているので、見る人は先に芝居を観て、こんなブログの下の方は読まないでください。







警告したからな!

最初、放射能の除染作業員の服装をした人たちが受付や案内をやっていて、開演前に舞台の除染をやるというパフォーマンスがあった。
そのままシームレスに芝居が始まった。

舞台と客席の間にビルの屋上のような柵があって、柵越しに芝居を見る。
途中役者が柵から身を乗り出して叫ぶ場面もある。

今日の演劇は寺山の初期の作品「醒めて歌え」と「青少年のための無人島入門」を組み合わせて交互に演じるという趣向だそうだ。
高野美由紀さんが街をさまよう映像もある。
あとで観客からの質問にもあったのだが、寺山だから昭和レトロというのではなくて、思いっきり現代的なような、それでも現代ではありえないような、いろいろな時代がコラージュ的に接ぎ合わされている感じがする。

高野美由紀さんが主役の少年役だが、飯塚さんはヒロイン役で、ういういしくて健気なカップルっぷりが良かった。
あぶなげな二人の生活を、ハラハラしながら見ていたので、ラストではどうしようもなく泣けて、泣けてしょうがなかった。
自分の今のダメっぷりにも重ねあわせて、深い感動があったのだ。
歌も踊りもあって楽しめた。

今日はアフタートークがあって、APBからは高野美由紀さんと、声が良くてしゃべりが超面白い中村天誅さん、ゲストは元天井桟敷のスタッフでもあった、多摩美大教授の萩原朔美さんだった。
萩原さんと言えばぼく世代には(だれ世代だよ)雑誌『ビックリハウス』の初代編集長として憧れの人で、超盛り上がった。

最初は高野さんの質問で、萩原さんが天井桟敷時代の思い出を語った。
【注意!】以下ぼくなんかの要約なのであまり間に受けないでください。

「劇団にはホモの人が多くて、ぼく(萩原さん)はそのケがなかったんだけど、ちょっとうたたねしてたら覆いかぶさって来る奴がいて、まいった。でも一回でも経験しておけば人生変わったかもしれない(笑)。寺山さんにもそのケはなかったんだけど、ドナルド・リチーのパーティに招かれて、カップルで行かないといけないから一緒に来てくれって寺山さんに言われて、しょうがないから二人で行った」

「脚本に、大量のネズミが俳優を登っていくって書いてあって、そんなの出来るわけないですよって寺山さんに言ったけど、寺山さんはあきらめずに『動物演出家』を呼んだ。そういうプロがいるんですよ。でもその人も『ネズミはできない。鳩なら出来る』と言ったけど、なぜか寺山さんが怒りだして『どうしてハトなんかにしなきゃいけないんだ』と言っていた。でもハトなら調教されてるから、プロだから出来る。ネズミはできないよ。しょせんあいつら素人だから(笑)」

「新宿アートシアターで毛皮のマリーをやったとき、横尾忠則さんの舞台装置が巨大すぎて、搬入口を通過できなかった。しょうがないから、切って入れて、中で組み立てますって横尾さんに言ったら、横尾さんは俺の舞台装置を切るなんてって言って怒って、装置を引き上げてしまった。すると主演の美輪明宏さんが自宅から、お風呂から家具から、全部持ってきて、それで上演にこぎつけた」

高野さんが驚いて「えっお風呂もですか」と聞くと「あっお風呂は違うかもしれない。でも天草四郎の油絵を持ってきた。美輪さんは『うそを演じるものこそ、本物を身につけなければならない』と言って、宝石は全部自前の、何百万もするものを着けていた。他の役者が、コシノジュンコの作った紙の衣装を着ていたのに、美輪さんはそんなのイヤだって言って、ジバンシーのオートクチュールの衣装を作った。入場料が五百円、美輪さんのギャラも一万円の時代に何十万円も掛けてですよ」

「寺山さんは『言葉の人』で、すべてを言葉で捉えている。昔からそうだったんだなあと、今日の舞台を見てあらためて思った。ぼくたちは言葉で自分の世界を形作っている。でも、それでいいのかという問いかけもある。たとえば純白という言葉があって、ぼくたちはそれぞれ心に純白というものがあると信じているが、純白という色はぼくたちには見えないそうですよ」

その言葉を受けて高野さんが「今日の芝居にも除染を扱ったけど、放射能は目に見えない。愛とか、夢とか、大切なものも目に見えない。目に見えないものを言葉でつないでいる」と言っていた。

その後高野さんから、ゲリラ撮影だったという劇中の映像の秘話もあって超ウケた。

質問コーナーがあった。
ひとつ質問をしてみた。
「主人公の"にんじん"がプレゼントをことづける場面があって、結局そのプレゼントが何か、誰も気にしないで終わってしまうが、あれはなんだったのか」高野さんが苦笑しながら答えていわく「あれは、サラリーマンになった"にんじん"が、初めての給料で、たぶん安い、ネックレスとか、そういうアクセサリーみたいなものを買ったんだと思って演じてたんですけど、でも、そんなの無人島生活には必要ないですよね。そういう、必要ないものを持ってきてしまったんだと思います」
すごいちゃんと答えてくださって、あらためて劇中の"にんじん"のやるせない日々を思って、泣けた。
今もこうして文章を書いていて、泣ける。
"にんじん"はダメなやつだなー。
もうちょっとだけがんばれば良かったのだ。
でももうちょっとだけがんばるのが、すごく大変なことなのかもしれない。
ぼくもダメ人間だけど、明日からがんばろう。

萩原さんが「寺山さんは『質問はひとつだけど、答えはたくさんある』と言っていた。いま(萩原さんが)学生を前にして思うのは、みんな答えはうまい。でもみんな正しい答えがひとつきりしかないと思ってる。もう答えはたくさんだ。もっと質問をしろ」と熱く語り、高野さんが「この言葉を受けてもう一つ質問はないですか」と言った。

他のお客さんの質問で「この舞台は何時代なのか」というのがあった。
「たぶん現代に近い過去だけど、主人公の"にんじん"は大人っぽくて、昔の時代にあこがれがあるんだと思う」と言っていた。
APBにも寺山修司を知らない若い役者さんたちが集まってくる。
そういう状況があるから、いろんな時代の言葉が舞台に出てくるのが自然なのかな、などと思った。

他にも結構面白い質問があって、天誅さんが急に面白い締めコメントを喋り出す場面もあって、アフタートークも超盛り上がった。

終演後、飯塚さんにがっつりご挨拶が出来て良かった。
"にんじん"について、恋人のキノミについて、いろいろ話をした。
劇は悲しかったけど舞台は楽しかった。
"にんじん"はいつも日記に書くことがない毎日を悔やんでいるが、ぼくはこうやってAPBの舞台を見て、日記に書くことが出来て良かった。