昨日の夜はなかなか寝付けなかったので、AppleMusicを渉猟していた。
そのうちハービー・ハンコックの『Perfect Machine』というのを見つけて、そういえばこれ聴いてなかったと思って聴いてみた。
ビックリした。

モロ好み!
『Future Shock』、『Sound System』に続く80年代のビル・ラズウェル/マテリアルとのコラボレーション作品だが、なぜかエアポケットのように聴いていなかったのだ。

ハービー・ハンコックは1960年代にマイルス・デイヴィス率いる「黄金のクインテット」(他のメンバーはウェイン・ショーター、ロン・カーター、トニー・ウィリアムズ)や、ソロ作品『処女航海』などで一躍名を馳せた。
もっとも、この時代のアコースティック作品をぼくはあまり聴いていない。
ジャズの良さがしょうじき良く分からないのである。

唯一例外的に大好きなのがマイルスの『ネフェルティティ』だ。
タイトル・トラックの「ネフェルティティ」は、マイルスとショーターがひたすら同じフレーズを何回も繰り返すというものだが、麻薬的なサウンドの虜になった。
のちのテクノや、ハウス、トランスといった音楽の元祖のような気がする。
この、ホーン隊が同じフレーズを繰り返してピアノ、ベース、ドラムが自由に暴れ回るというアイディアが実はハービーのものだったという。

ぼくがハービーのプレイを意識して聴き始めたのは、『イン・ア・サイレント・ウェイ』や『ビッチェズ・ブリュー』という、ジョー・ザヴィヌルが加わった電化マイルス時代からだ。
ハービーがエレクトリック・ピアノを弾くようになったのは、マイルスがザヴィヌルのところにハービーを引っ張って行って「オイ、こいつの弾く楽器の音を聴いてみろ・・・」と言ったのが最初とどこかに書いてあったが、本当だろうか。

それからザヴィヌルもハービーもマイルスのバンドを離れ、各自フュージョンの世界で活躍し始めた。
ぼくは1990年ごろから、なぜかザヴィヌルのバンド、ウェザー・リポートに異常にハマって、10年ぐらいほぼ毎日マイルスとウェザーを交互に聴いていた。
そのうち聴くものがなくなったので、ハービーの作品も電化した『ヘッドハンターズ』から聴き始めた。
16ビートのディスコ調の曲で、調子よく楽しく聴けて、しかし奥が深くて何回聴いても飽きない。
これも2000年になって30年遅れでハマった。

この完全にディスコ調のタイトル・トラックで始まるアルバムで、「ハービーはエレキに走って、ジャズを捨てた」などと悪口を言われたそうだが、『ヘッドハンターズ』というタイトルは「首狩り族」のことで、「アフリカ人のルーツを思い出せ」というハービーのメッセージだそうで、当時のハービーはこちらの方がルーツの音楽と思っていたのかもしれない。

70年代のハービーは他にも、ハービー自身がヴォコーダーで気持ちよさそうに唄う「I thought it was you」で始まる『Sunlight』や、ブラジルの歌手ミルトン・ナシメントを招いたショーターのアルバム『Native Dancer』(同名の日本のバンドもあるが無関係)などゴキゲンなアルバムがあるが、青春時代はフュージョンに偏見があって聴かなかった。
いま思えばもったいないことをした。

80年代になって、『Future Shock』がリリースされる。

これは流行り倒したので、リアルタイムで聴いていた。
「キュキュキュキュキュキュキュキュ、ジャン、ジャン」というスクラッチであまりにも有名な「Rock It」を収めた曲だ。
この曲は「さんま御殿」のブリッジになったりして、こすり倒されていて(スクラッチだけに)、いまさら聴くと恥ずかしい感じだが、いま聴いても非常に新鮮な音楽だ。(どないやねん)
ゴドレー&クレームによるビデオ・クリップも衝撃的だった。



これをステージ上で再現したグラミー賞のパフォーマンスも興奮した。



スクラッチも、ブレイク・ダンスも、アメリカのストリート文化としてはもっと昔からあったと思うが、ぼくのような日本の田舎者はこれを通じて初めて知って、度肝を抜かれた。

ハービーがインタビューで「Rock Itがヒットして良かった。あれは大ヒットしたけど実はすごく高度で難解な音楽だ。これで発言権が増え、アルバムの企画が通りやすくなった」と言っていた。
あるていど謙遜で言っているのだと思うが、ハービーのような巨匠でも、そんなことがあるのか! と思った。

『Future Shock』の後にラズウェルとのコンビで『Sound System』というアルバムが出た。

これは、いかにも二番煎じーという感じのアルバムで、「Rock It」と双子のような「Hard Rock」という曲も入っている。
ところが、このアルバムに入っている「People Are Changing」という曲がツボにハマった。



ドラムもリズムボックスで、超シンプルなメロディをひたすら繰り返すだけの曲なのだが、なぜか気に入りに気に入りまくって、一日中リピートにして聴いていたのだ。
歌っているのはバーナード・ファウラーという人で、坂本龍一の「GT」なども唄っているのだが、ソウルの塊のような歌で、まさに魂を揺すぶられる。

ということで、続く『Perfect Machine』も当然聴いていてしかるべきなのだが、何年か間が空いていて、その間ハービーはサウンドトラックや普通のジャズのアルバムを出していたので、関心が逸れていて、うかつにも聞きそびれていた。

またしても本来ベーシストでもあるビル・ラズウェルとの共同制作だが、ジョージ・クリントン率いるPファンク・オールスターズのベーシストであるブーツィ・コリンズが参加している。
そういえばPファンクのようなブラック・ユーモアがあちこちに振りまかれているサウンドだ。



このアルバムは、メロディがハッキリしていて分かりやすい。
あのキャッチーに思えた「Rock It」が「実は高度で難解な音楽」というのがよく分かる。

もう一つの特徴は、リズムがすごくジャストでコンピューター的だということだ。
これがすごく興奮する。

坂本龍一がNHK Eテレでやっていた「スコラ」という番組で、YMOメンバーが参加したとき「機械でジャストなタイムの音楽をやっていると、無機質って言われる。そういう風に言いたがる気持ちは分かるけど…(機械は実は官能的である)」とか「最初にマーティン・デニーの「ファイヤークラッカー」をカヴァーするときは、コンピューターを使わずに、手弾きで演奏していたけど、つまらなかった」とか言っている。



この番組は、4つ打ちの2拍目と4拍目をズラすとハネるけど、そのズレを調整することで、ニューオリンズはこれぐらいとか、沖縄はこれぐらいとか数値で調整できる、という話をしていて、すごく面白かった。

クラフトワークや、ジョルジオ・モロダーの音楽のようなディスコ・サウンド、シーケンサーによるジャストなタイム感が、人間を興奮させる、という目覚めが、80年代には世界中であったのだろう。

ということで、まる30年遅れではあるが、ハービーの『Perfect Machine』というアルバムを初めて聴くことが出来てハッピーだ。
YMO好きには是非おすすめしたい。
AppleMusicのおかげで、出会うべきであったのに出会わなかった音楽に毎日出会えるのはありがたい。