連載の第4回である。
第1回は、本1冊は15万字ぐらいの文章を持っていて、このブログぐらいの量の文章を毎日書いている人なら、字を書くだけなら2ヶ月もあれば書けると書いた。
第2回は、本1冊で儲かるお金は容易に予想できないが、1000冊売れて20万円ぐらいであり、仕事勤めをしながらそれぐらいのお金で儲かった感を味わうのは難しいと書いた。
第3回は、「ハリー・ポッター」のような独創的な本の構想がある人は、ダメモトで書いてみればいいのではないか、1日30分書けば2ヶ月で15万字になるから、と書いた。
今のところ、豊富な経験に裏打ちされた実践的な情報と言うのは出てきていず、すべて机上の空論である。
ゴメンナサイ。

さて今回は、前回とは逆に、特に書くことがないと思っている人でも、書けることがあるんじゃないかということについて書く。
つまり、多くの人が、自分では特に価値がないと思っている情報でも、他の人は是非読みたいと思っていることがあるんじゃないかと思うのだ。
それは仕事のことである。

筒井康隆氏の「大いなる助走」には、文芸同人誌をやっている人の中で「パンク」という小説を書いている自動車修理工の人がチラッと登場する。



また、同時期の筒井氏の書評集「みだれ撃ち涜書ノート(Amazon)」にも「職業作家には可能性があるのではないか」と書いてあったように覚えている。
ここで閑話休題。
上で、ぼくは職業に関することを書く作家という意味で「職業作家」と書いたが、普通「職業作家」というと、作家で生計を立てている人という意味である。
では筒井氏は「みだれ撃ち」の中でどういう言葉を使っていただろうか、
いま手元にその本がないので、分からない。
スミマセン。

「労働作家」だとプロレタリア文学の作家という感じで、違う気がする。
「職能作家」とかだろうか。
そんな変わった言葉ではなかったような気がする。
よく分からないが、この項目の中では「職業のことについて書く作家」イコール「職業作家」、というローカルルールで話を進める。

長々と横道に逸れてしまったが、こういう用語法の話も長い文章を書いているとちょくちょく問題になるので、面白いから書いた。

さて話を戻すと、職業作家、つまり自分の仕事について本を書くというのは可能性がある。

先日医療事務の人とご飯を食べる機会があって、ぼくの本について検索してくれたそうで「すごいですね~!」と言われて鼻高々だった。
でも「なぜ本とか書けるんですか~?」と聞かれて、そう言われればなぜだろう、と思った。

ぼくは結構トシを食っているので、社会人になってから長い。
同じ仕事を長い間やっているので、仕事については一応専門家になっていると思う。
むろん科学者や芸術家と違って雑用が多いので、ある分野を深く知るという風にはなかなか行かない。



上の本によると、人は1万時間を1つのことに費やすと専門家になれるそうだ。
1年でまあ300日とすると、7年で2100日だから、1日5時間がんばれば大体7年もすれば専門家になっている。
ぼくも、雑用の分も入れても、一応今の会社で専門家になっている。
誰だって中年以降になればそうだと思う。

食事をした医療事務の人も、結構なお姉さんであるので、医療事務の専門家だと思う。
事実、病院の話を聞くと、いろいろ面白い。
こんな患者さんがいる、こんなナースさんがいる、こんなドクターさんがいる。
忙しいときにはこういう現象が起こる。
よく「切り口」ということが問題になるが、病院の受付の内側から世界を見ると、こんな風に見えるというのは一つの物語になっていると思ったのである。

いやいや、ぼくなんて専門家じゃないですよ、雑用ばっかりですから・・・と思われるだろうか。
ぼくも自分でそう思う。
でも、いかに雑用であっても、その一人の人に集中して発生する雑用であるということは、何らかの理由があるということだ。
つまり、その人の雑用を一つのカタログにまとめれば、その人の切り口から得られる専門性の分野が現れるのではないだろうか。

たとえばInDesignとPerlとUnicodeを使って、鮮魚および寿司の業界新聞を編集している人がいるとする。
毎日仕事をしているからと言って、InDesign、Perl、Unicodeのそれぞれについて、一冊の本が埋まるネタはそうそうないかもしれない。
でも「InDesignとPerlとUnicodeを使って、鮮魚および寿司の業界新聞を編集している人」じゃないと得られない専門知識のセット、面白いこぼれ話群はあると思う。
面白そうだ!
こういうの、いろんな職業の人に、みんな書いて欲しい。

ぼくは今のところPerlとUnicodeに関して書いているが、勤めているのが翻訳会社なので、翻訳やWebの切り口からの話がどうしても多くなる。
逆に、Perlのことなら、Unicodeのことなら何でも載っているという、網羅性のある本は書いていない。
本のページ数、読者の集中力にも限界がある。
ぼくなりの切り口でPerlとUnicodeを見たらどうなるかという話、その片寄り具合を楽しんでもらいたいと思う。

もちろん、ぼくがいま会社でやっている雑用一式を、ちょうどこなせるだけの知識を書くのではダメだ。
いろいろな分野で応用できるような広がりを持たせるように努力している。
でも、取り掛かりは、自分が取り組んだ仕事、自分が興味を持って勉強した範囲がスタートになると思う。
そして、その人なりの偏った勉強の仕方が、その人の味になると思うのである。

このブログをどんな方が読んでるんだろうか。
自分の仕事を一冊の本にしたら、どうなるか想像して欲しい。
ラーメン屋の店主をしながら、会計をAccess VBAで自動化した人がいたら、是非その人のプログラム論を書いて欲しい。
ウィークデイはパソコンのSEをしながら、週末はウィンドサーフィンの大会に出ている人が、いかに時間を捻出するか、ウィンドサーフィンで培ったものが、いかに会社の仕事で役に立ったか、という話があったら、是非読んでみたい。
町内会の幹事をしながら、町内の殺人事件を解決した人がいたら、誰だってその人の話を読みたいと思うだろう。
ということで、特に書くことがないと思っている人であっても、職業作家になる可能性があると思うのだがどうだろうか。

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