カナダ出身の大歌手、ジョニ・ミッチェルさんが病気で入院中らしい。
昏睡状態のところを病院に運ばれたが、今は意識はしっかりしているとか、また昏睡状態になったとか、もともと色々な病気だったとか、譫妄状態を伴う病気だとか、色々言われている。
どれかニュースサイトのリンクを張ろうと思ったが、情報がはっきりしないし、興味本位のものもあって、いやな気分になったので、貼らなかった。
一刻も早く回復されることをお祈りします。

Joni Mitchell (1975)
ジョニ・ミッチェルはフォーク、ロック、ジャズ、フュージョンと幅広いジャンルのミュージシャンと活躍しているミュージシャンだ。
ぼくは中学ぐらいのとき、ロックが好きだった。
当時(70年代末期?)は日本のロック・ファンがフュージョンとフォーク(ニュー・ミュージック)を敵視するというアホな風潮があったのだが(世界的にそういうアホなファンはいたようだが)、ジョニは別格で好きだった。
「ウッドストック」という、例のロック・フェスティバルの模様をちょっと俯瞰で眺めているような曲があって、CSN&Yがロック風に、ジョニ自身がギターの弾き語りで演奏している。
この歌詞がなんとも摩訶不思議で、ファンタジー性と社会性が交錯していて、英語の詞をノートに写したり、勝手に翻訳したりした。
当時はワープロがまだないので、何回も書き直した。

ぼくは当時はブリティッシュ・ロックのイエスが好きだった。
イエスのジョン・アンダーソンはジョニの影響を受けていて、声や歌い方も似ていた。
イエスは大仰なロックの方向に進み、ぼくもそちらについて行ってしまったが、今もどちらの声を聞いても他方を思い出す。

大人になってジャズ、フュージョンが好きになった。
それで、また自分の中でジョニのブームが来た。
ジョニはフォーク・シンガーでありながらジャズやフュージョンの大御所と共演した。
特にベースのジャコ・パストリアスと蜜月関係だった頃の作品がフォークとしてもフュージョンとしても頂点だったのではないだろうか。
ぼくはジャコのプレイの中でも、ジョニとやっていた頃が一番好きだ。
ウェザー・リポートでのプレイよりも、ジャコのソロバンドでのプレイよりも好きなのである。
これは年季の入ったジャズ・マニアの方も共感してくれたので、そう間違った感想ではないと思う。
ジョニの歌にぴったり寄り添いながら、のびのびと歌っているベースが大好きである。
スタジオ・アルバムとしてはやはり「逃避行(Hejira)」が最高だ。

そして最高なのがライブ・アルバムの「シャドウズ・アンド・ライツ」である。
CDもDVDも出ている。
これがメンバーがすごくて、ジャコ、パット・メセニー、ドン・アライアス、マイケル・ブレッカーが参加している。
ジャコがノリノリでベースを歌わせていると、メセニーとジョニが顔を見合わせながらリズムをキープしてジャコのベースを盛り立てているのが楽しい。
「Hejira」という歌はジョニが旅をしている歌だが、「雪と松林を抜けてベニー・グッドマンの音楽が聞こえてくる…」という本来の歌詞を「マイケル・ブレッカーの音楽が…」と歌い変えて、その瞬間にブレッカーがサックスを吹き始めるところも超楽しい。
このアルバムはあらゆる音楽のレコードの中でも究極の一枚で、絶対に聴いたほうがいい。

昔は浅川マキさんや三上寛さんが山下洋輔トリオと共演していたことを山下洋輔さんのエッセイで読んだことがある。
このように、日本でもジャズとフォークの融合が積極的に行われていたのだろうか。
(山下洋輔さんがプロデュースした三上寛さんのレコードはCDに復刻されたのを聴いたことがあって、異様な傑作で驚いた)
そういうジャズとフォーク、ロックが積極的に融合した音楽が聴きたいと思う。
(ぼくが知らないだけで、すでにあるかもしれないが)

ぼくがミュージシャンの中で一番好きなプリンスがやはりジョニの影響を受けている。
プリンスの最高傑作の一つ「サイン“O”ザ・タイムス」の中の曲「ドロシー・パーカーのバラッド」の中にジョニの「ヘルプ・ミー」という曲が引用されているのだ。
こういう風に、大好きなミュージシャンの中に別の大好きなミュージシャンの影響を見出すのは楽しいし、改めてジョニの偉大さを思う。

ジョニは絵も達者で、アルバムのアート・ディレクションもすべて自分で行っている。
マイルスが死んだときに、彼の顔を青い絵の具で描いて、ウェイン・ショーターにマイルスのアルバムの名前になぞらえて「カインド・オブ・ブルーだね」と言われたそうだ。
マイルスが死んだときもびっくりしたが、もうだいぶ経ってしまった。
偉大な音楽家は、毎日偉大な作品をレコードで聞いて、そのいつまでも新鮮な響きに触れているから、いつまでも死んだり、病気になったりしないような気がする。
ジョニはまだまだ元気だと思うが、とりあえず急にニュースを聞いてびっくりした。
一刻も早く元気になってください。