年末年始にテレビをぼんやり見ていたら、アイドルの人がぼそっと「売れないのを客のせいにしてもしょうがないんだよな」と言った。
言い慣れた口調だったので、昔からある言葉かもしれないし、その人が普段から座右の銘にしている言葉かもしれないが、ナルホドと思った。

Street musician in Tallinn old town
いぜん原稿を編集者の方に提出して、電話で打ち合わせしているとき「ここでxxxって書いてらっしゃるのは、どういう意味でしょうか」と尋ねられた。
ぼくは危うく「ああ、そうはこういうことなんです・・・」と答えそうになって、あわててやめた。
「この電話で説明してもしょうがないですね。原稿から読み取れなかった、ということですから。この段落がわかりにくいんですね。分かりました。書き直します」と言った。
向こうも「あっ、それはそうですね、よろしくお願いします」と笑った。
原稿に★印をつけて、書き直しを送り、OKが出てホッとした。
本を買って読んでくれる読者の人は、編集者さんとぼくの電話のやりとりなんか聞いていない。
だから、いくら打ち合わせで「この原稿はこういう深い意味があるんです」と力説してもしょうがないのである。

よく、最近は本が売れない、レコードが売れないという。
握手券を付けないと売れないというのである。
この現象が「そういう軽佻浮薄な世の中が悪い」、「音楽を聞かないで若い女の子と握手している人は何を考えているのか」みたいな文脈で語られる。
「若者の〜離れ」みたいな言い方もある。
実際、世の中が文化的に劣化していることは確かなんだろう。
しかし、こういう批判を、ミュージシャン自身はあまりしない。
客を攻めてもしょうがないのである。
自然に売れるように努力するしかない。