一昨日、NHKの経営委員でもある作家氏が「野党はエボラ出血熱対策の法案の審議をストップさせている。世界中の人がエボラと戦っているのに、野党は日本人を殺す気か!」とツイッターで吠えていて、これはさすがに乱暴な議論だなあと思った。

Ebola virus virion
じっさいには感染症法改正案はまだ審議に入っていないので、その審議を止めることはできない、ということで、作家氏は発言を訂正した。

かりに、審議入りしていたとしても、この法案は「本人が拒んでも都道府県知事の命令で血液などの検体を採取できる」というもので、真剣に専門的な議論が必要であろう。
危機的な状況であるからといって、バタバタと拙速に決めるものではないだろう。

もし野党が国会審議を遅滞させているのが事実だとしても、それは与党大臣に政治とカネ問題が続出しているからである。
叩くたびにホコリが出るようないい加減な人材、それを選んだいい加減な首脳陣に、政治を委ねているわけにはいかない。
与党を野党があら捜しするのは今に始まったことではなく、今の与党が野党だったときも盛んにやっていたものである。
相互にチェックするのが政党の役割である。

そして今国会の大きな争点は派遣法の改正である。
この法律の審議は時間がかかって当然だ。
もし作家氏の乱暴な論理を押し進めれば「エボラから命を守るためには派遣労働者も多少法律がきつくなっても我慢しろ」ということにもなってしまう。

命が危険だから、世界が危機的な状況だから、といって、平時ではありえないスピードで危険な法律がバンバン通ってしまう。
これは「ショック・ドクトリン」と言って、権力者がよく使う政治手法である。

アメリカでは911テロの際に「愛国者法」という法律で権力による盗聴、検閲の自由を大幅に強化した。
これ、なぜ愛国者法なのか長年疑問だったのだが、「2001年のテロリズムの阻止と回避のために必要な適切な手段を提供することによりアメリカを統合し強化するための法律 (英: Uniting and Strengthening America by Providing Appropriate Tools Required to Intercept and Obstruct Terrorism Act of 2001)」略してThe USA PATRIOT Act of 2001だそうである。
あいうえお作文かよ!
悪い冗談である。
これ、テロリズムに対する恐怖で全米が震え上がっていた時期であり、ニール・ヤングのような人が星条旗を背負ってコンサートをするような時期であって、簡単に法律が通ってしまった。

これ、与党の首脳陣やトップ閣僚はさすがになかなか知恵者が多くて、もし何らかの天変地異が起こったら、いつでも無茶な法律を通せるように、いくつも手駒を用意して、すきあれば権力の拡大を狙っているのである。
と、いう前提で件の作家氏の発言を吟味すると、戦時には議会制民主主義の原則は外れても良い、与党独裁で無茶な法律をバンバン通すべきだ、と言っていることになり、なかなか味わい深い。
いまの日本社会はそれでも言論の価値がなかなか高くて、すぐに作家氏の発言が批判的に吟味されてよかった。

ショック・ドクトリンは別にいまの与党だけに有利に働くものではない。
アメリカで言えば、国権の強化は共和党にも民主党にも有利であって、オバマ大統領は愛国者法の延長に署名した。
いま自民党が、国権の大幅な強化をねらった憲法案を練っているが、もしその憲法が成立し、しかるのちに政権交代が起こったら、自民党は自らが出した憲法によって大変苦しむのである。
安倍首相は未来永劫一党独裁の世の中が続くと思っているかもしれないが、なかなかそうはいかないのではないか。
反対の立場のものが相互にチェックしながら納得の上で物事が決まる、そういう世の中にしないと持たないと思う。