マンガを何十年も読んでいるが、マイ・オールタイム・ベストワンは何と言っても、ちばてつや先生の『おれは鉄兵』だ。

同世代だと同じちば作品でも梶原一騎原作の『あしたのジョー』を推す人が多いと思うけど、こっちはいまいち印象に残っていない。
『ジョー』は子供の頃、母親に読むのを禁じられていたと思う。
それから読む機会がなく、大人になってから教養として読み返したので、面白いはおもしろいけど、それよりも前に読んでいた『鉄兵』の印象を凌駕するものではなかった。



『鉄兵』はおもしろい。
ぼくの脳みそに形成されている、「面白さ」という価値基準の、大きな部分を『鉄兵』は占めている。
「痛快」という言葉をマンガに結晶させると『鉄兵』になるのだと思う。
剣道マンガだと思われていると思うが、最初と最後に宝探しの話がくっついていて、全体として少年の成長物語(ビルドゥングスロマン)になっている。
トム・ソーヤーとハックルベリー・フィンをくっつけてかったるい部分を取り除いたようなものだ。
とか、解説を書けば書くほどつまらなくなってくるような気がするので、これはもう読んでくださいとしか言いようがない。

この作品は長い間愛されていて、何度も再刊されている。
つい最近もコンビニ版(「ぶ〜け」などと同じ判型)で再刊されていて、いま現在はちょうど半分ぐらいまで出ている。
行儀が悪いが、コンビニで引きずり込まれるようにチラチラ立ち読みしてしまった。
止まらない。
そのまま読んでいると本格的な立ち読みに移行してしまう。
それは避けたい。
しかも、読み切ってしまっても先がまだ出ていないのだ。
これは、今日明日じゅうに『鉄兵』を全巻揃えで手に入れないといけないと思った。

でも、マンガ本を買うのはいまいち気が進まないのである。
何度も書いたような気がするが、場所を食うし、すぐにどこかに行ってしまう。
家が片付かないので、すぐに好きな巻が出てこない。
マンガは、好きな場面を、「ああ、あの場面を、いま、すぐに見たい!」という欲望がある。
「いま、あの鉄兵がしごかれて先に寝てしまった時に、他の下級生がぶつぶつ話し合う場面が見たい!」
「鉄兵のトイレを吉岡部長が覗き込む場面が見たい!」
「鉄兵が『俺は二刀流を使ってみたい』と言ったとき、カバッチョ部長がどんな顔をしていたか確認したい!」
とか思うのである。
そんなとき、紙の本だと、家が片付いていないとすぐにアクセスできない。

やはり電子書籍である。
何百冊あろうが場所を取らない。
すぐにアクセス出来る。
家を片付けて、マンガを背を出して巻数で揃える必要もないし(だいたいそんな場所は家にはない)、何なら電車の中でも、iPad miniさえ持っていればアクセスできる。
天国である。

ところが『おれは鉄兵』は、KindleにもKoboにもない。
『あしたのジョー』はあるのにである。
こういうところが、ちょっと電書はガックリ来る。
点数が致命的に足りないのである。
『おれは鉄兵』が揃わない書店なんか信じられない。

ところが、である。
あまりにも『鉄兵』に飢えていたぼくは、たわむれに「電子書籍 おれは鉄兵」で検索すると、eBookJapanというストアで売っていることが分かった。




浅学にしてこのストアの存在を知らなかったのである。
ぼくは電子書籍はまずPubooで買いたい。
次にKindle(Amazon)で買いたい。
次にKobo(楽天)で買いたい。
その後は諦めてしまう。

電子書籍ストアは、ストアごとのDRM(デジタル権利管理)をしているので、Kindleの本を読みたいときはKindleアプリを起動する必要がある。
Koboの本を読みたいときはKoboアプリを起動する必要がある。
何の本を、どれで買ったか覚えておかないといけないわけである。

だから、Kindle、Koboの他に、さらに何個もの電子書籍ストアに会員登録して、電子書籍アプリのアイコンがiPad miniにズラリと並ぶのが、あまりゾッとしないと思っていたのだ。
これ、権利管理をしなければいけない出版社やストアのお家事情はまあ百歩譲って認めるとしても、アプリの相互乗り入れぐらい出来るようにしてもらえないだろうか。
汎用のリーダーでKindleもKoboも、他のストアの本も買えるようにして欲しいのである。
お願いしますよー。

ということで、eBookJapanも専用のリーダーがないといけなかったので、食指を伸ばしていなかった。
しかし、「一刻も早く『鉄兵』を読まないと死ぬ脳」になっていたぼくは、eBookJapanにアクセスした。

そして思った。
eBookJapanは、イイ!
KindleよりもKoboよりもケタ違いに使いやすいのである。

まず、全巻揃いを一気買いできる。
『鉄兵』の場合、全33巻セット(9900円)をワンクリックで買えるわけである。
危険だ!
でも『鉄兵』だったらいいと思って買った。
一瞬で揃った。
全巻揃いセットをいちいちポチる必要がある他のストアと違う。

次に、専用アプリの使い心地が夢のようである。
Kindle、Kobo同様に、本をクラウド(サーバー)に預けておくか、ローカル(端末)にダウンロードするか選ぶことが出来る。
全部ダウンロードしてしまうと端末のディスク容量が逼迫してしまうし、全部サーバーに預けてしまうといちいちダウンロードするのに時間が掛かる。

eBookJapanは「バッググラウンドでダウンロードしながら読む」という選択ができる!

つまり、『鉄兵』の22巻を読み終わったから23巻を一刻も早く読みたい!と言う場合は、まず22巻をクラウドに預ける。
(eBookJapan用語では「トランクルームに預ける」と読んでいる。友達で家に置ききれない同人誌をトランクルームに預けている友達を思い出したw)
これは一瞬で終わる。
(実際には、端末で読むのを止めるという情報がサーバーに行き、ローカルのデータが削除されるだけで、サーバー側では常に情報を保持しているのであろう。他の人も同じデータを読むから当然だ。)

次に、23巻をダウンロードするが、そのとき「読みながらダウンロードする」という選択肢を選べる。
これで、最初の方を読みながら、平行して後ろの方をサーバーからローカルにダウンロードする、ということをやってくれるのである。
これが、イイ!
マンガを読んでいて、読み耽っていると、一刻も速く次の本を見たくなる。
ここで、従来の電子書籍ストアだと、一瞬遅れる。
白けるのである。
この「読みながらダウンロードする」という機能といい、「トランクルーム」という用語法といい、eBookJapanを作っている人は、そうとう病膏肓に入ったマンガ読みなのではないだろうか。
マンガ耽読者が、マンガ耽読者のために、マンガを耽読する用途で作ったサービスという気持ちが伝わってくるのである。

さらに、クラウド側もローカル側も、独自のフォルダーを作ってコンテンツを分別整理出来る。
当たり前に思えるが、この当たり前のことが、Kindle/Koboには出来ない。
これはKindle/Koboがどうかしてるぜと思う。
マンガはすぐに何十巻、何百巻になる。
横山光輝の『三国志』とか入れ出したら大変なことになる。
(ちなみにeBookJapanでは横山三国志も読める!)

ちなみにKoboにできて、Kindleに出来ないことだが、eBookJapanはWindowsやMacからも読める。
ブラウザーからも読めるので、LinuxでもSunでも読める。
さらにWindows Phoneからも読めるのである!
Windows Phoneはぼくはどうでもいいけど、心意気がうれしい。

ということで、1万円オトナ買いで『おれは鉄兵』を書い、iPad mini措く能わざる勢いで読み切ってしまった。
ああ、スッキリした!

電子書籍業界にはさいきん悪いニュースもあって、ヤマダ電機が独自に初めていたストアを止めてしまった。
まあ商売だから、うまく行かなければたたむことぐらいあるだろうから仕方ないとは思うけれど、やめ方がひどくて、なんとこれまで買った(読む権利を買った)本は、一気に全部読めなくなってしまうという声明が流れた。

これはひどい!
という話になったが、一転「他のストアに移行出来るよう調整中」ということになった。
そりゃそうだよ!

ヤマダ電機、電子書籍ストア閉鎖対応を一転、DL済み作品は閲覧可能に -INTERNET Watch

「最初の発表は記載に不備があった(言葉が足りなかった)」ということである。
DRM付き電子書籍は、買っているわけではなく、読む権利を無期で貸与されているだけである。
ストアがコケたら、読者は全員、買った本が全部読めなくなる。
さらに、特定の本だけ読めなくすることも、特定の読者だけ読めなくすることも技術的には可能である。
こんな圧倒的な権利を書店が持つことは書物の歴史上なかった。

ということで、電子書籍推しの読者は、そういうことも起こりうるという「覚悟」が必要である。
だから寄らば大樹の陰でKindleやKoboが流行り、そうするとますますマイナーなストアは流行らないことになる。

eBookJapanはとにかく素晴らしいので、末永く活躍するように応援したい。

(本当はぼくの本を出している達人出版会や、動物の表紙で有名なオライリーのように、しょうしょう高くてもDRMなしのストアが一番いいんだけどね・・・)

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