AKB48の事件報道を見ていて、「川栄李奈さんは『おバカキャラ』として人気を集めていて・・・」という表現が良く出てくるのだが、この「おバカキャラ」というのがアナウンサーにとって、結構な確率でうまく言えないことが分かった。
必ず初見では「オキャ・・・オバカキャラ」というように言い直すのである。
ていうかニュースで言うほどのことだろうか。

Gun-Hägglund-1958
うまくいえないことを「噛む」(かむ)ということがさいきん多くなった。
「ボケ」、「ツッコミ」、「フリ」、「オチ」、「ノリツッコミ」、「見切れる」などと同じく、芸人/テレビ用語である。
Web版大辞林では
「〔俗語。放送業界の用語からという〕 言葉がつかえたり,言い間違えたりする。自動詞的に用いる。 「ニュース放送で何度も-・んだ」 」とある。

かむ[嚼む・咬む] 国語辞書 - エキサイト 辞書

ここ20年ぐらいの言葉のような気がする。

「おバカキャラ」という言葉は、何回か口になじませてみると、それほど言いにくいものではない。
ただ、口に馴染むほど何回も言う機会がないというだけだ。

必ず噛む言葉は、早口言葉として昔からある。
「隣の客はよく柿食う客だ」
「坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いた」
などである。

英語で早口言葉のことはtongue twisterという。
"Peter Piper picked a peck of pickled peppers.
A peck of pickled peppers Peter Piper picked.
If Peter Piper picked a peck of pickled peppers,
Where's the peck of pickled peppers Peter Piper picked?”
などが有名である。

English Tongue Twisters | 1st International Collection of Tongue Twisters

この早口言葉は、言いにくくするためにわざわざ不自然なシチュエーションを作っているところがわざとらしい。
隣の客がどの程度柿を食うかなどわかるものではないし、坊主が屏風に坊主の絵を描くところなどもあまり出食わさない。
ピーターがピーマンのピクルスをどうしようが、わざわざ言うことはないのである。
まあそのぶんシュールな味わいがあるとも言える。

その後出てきたニュー・ウェーヴの早口言葉は、ある程度現実的に使う言葉であり、なぜうまく言えないのか良く分からないものである。
「バスガス爆発」と3回言う、「ジャズ歌手シャンソン歌手」と3回言う、というものである。
とくに「ジャズ歌手シャンソン歌手」は、ジャズ歌手、と単独で言うならスッと言えるのに、後にシャンソン歌手が控えていると心理的な影響があって「じゃじゅかしゅ」などというところがおかしい。
そのうち「かんそんぱしゅ」などと分けがわからない噛み方をする。

さらに最近は、ニュース原稿に必ず出てくるが、絶対に言えない言葉、というのに注目されている。

野球の強豪である「駒大苫小牧」(こまだいとまこまい)、北朝鮮からやってくる「貨客船万景峰号」(かきゃくせんまんぎょんぼんごう)などである。
「高速増殖炉もんじゅ」(こうそくぞうしょくろもんじゅ)も相当言い難い。

「骨粗鬆症」(こつそしょうしょう)というのも言い難い。
この「鬆」という字は、「す」つまり豆腐や茶碗蒸しに不本意に入るスキマのことであるという。
「す」は和語で、昔は「巣」の字を当てることが多かったが、最近では中国語で似た意味の「鬆」と書くことが多いと言う。

鬆 - Wikipedia

こんな難しい字を使うようになったのは、骨粗鬆症の影響ではないだろうか。
あと、どんな難しい字でも機械が出してくれるパソコン、ワープロ、ケータイ文化のおかげでもある。
それにしても、最初この病名を考えた人は、なぜわざわざこんな難しい字をここに書くことにしたのだろうか。
これは誰か別の人が書いていたエッセイの受け売りだが、「骨粗症」で意味が通じるような気がするのである。
「鬆」の字は新聞では当然制限される漢字で、「骨粗しょう症」などと醜い交ぜ書きにしている。
本末転倒である。

言いにくい言葉に戻るが、ぼくが発見した難読言葉は(他の人も発見しているとは思うが)国立市が有名な「マンション訴訟」(まんしょんそしょう)である。
これ、一時ニュースで話題になったが、どの局のアナウンサーも一発で言えていなかったと思う。

アメリカにロック歌手のマリリン・マンソンという人がいるが、もしもあの人がマンション訴訟を起こして、裁判に勝ったら、こうなる。
「マンション訴訟マンソン勝訴」(まんしょんそしょうまんそんしょうそ)
これは言いにくいよ。
でもわざとらしくて、昔の早口言葉に戻った感じが否めない。

今日書き上げたあらゆる難読用語を含むニュース原稿があったらどうなるだろうか。
「駒大苫小牧出身のおバカキャラが高速増殖炉もんじゅの事故、マンション訴訟、骨粗鬆症の苦しみを得て貨客船万景峰号に乗った」
あまり面白くないか。

外国出身の力士の名前が強烈なのが多い。
朝青龍が「ドルゴルスレン・ダグワドルジ」、琴欧洲の旧名が「カロヤン・ステファノフ・マハリャノフ」である。
琴欧洲は帰化で「安藤カロヤン」という超言いやすい名前になったのがなんかおかしい。

ところで、あまり関係ないが、さいきん報道される人は難読苗字の人が多い。
STAP細胞の小保方(おぼかた)さん、ゴーストライター問題の佐村河内(さむらごうち)さんというのが有名だ。
痛ましいベビーシッター事件の物袋(もって)勇治容疑者という人もいた。
最近ではASKA覚せい剤事件の栩内(とちない)香澄美容疑者という人がいた。

この栩(とち)という字は、Webkio辞書植物名事典によるとトチノキのことであるという。

栩とは - 植物名 Weblio辞書

しかし、Wikipediaでトチノキを引いてみると、「栃、橡、栃の木」と書かれている。

トチノキ - Wikipedia

これはどういうことだろうか。
こんなことを調べていると、時間がどんどんなくなる。