さて、先週までロック・バンド、イエス(Yes)のレコード評を書いた。
好きな順に書いていたら、だんだん好きではないアルバムの紹介を書かなければならなくなってしまった。
一応先週紹介したの1987年、『ビッグ・ジェネレーター』で一区切りをつける。

Wind generator
この時期に、ぼくはイエスのライブを見に行っている。
人生最初で最後である。

何もこの時期に行かなくても、と、いま考えると思う。
なにしろギターがトレヴァー・ラビンでキーボードがトニー・ケイである。

それでも、当時はまだ1983年の「ロンリー・ハート」の大ヒットの余韻が残っていたし、このままのイエスをまだまだ聴き続ける気で、当時はいた。

ちなみに、このメンバーでイエスはライブ・アルバムおよびビデオを出していた。
『9012ライヴ』である。
これはアルバム名『90125』を英語読みするからシャレになっている(liveとfiveで踏んでいる)のである。

『9012ライヴ』の映像は、なんと『オーシャンズ11』で有名な映画監督スティーブン・ソダーバーグが映画デビュー前に撮ったものである。
このビデオがわけが分からない。
いろいろな古いアメリカ映画を組み合わせて、宇宙船などのレトロ・フューチャー的な映像とオーバーラップさせているのだが、そんなのいいから演奏を見せろと言いたくなる。

昔のロックのビデオはとかくこういうのが多かった。
アーティストの意向がそうだったのである。
有名なのがエマーソン・レイク&パーマーの『展覧会の絵』で、アメコミ的なスーパーマンの映像が「バーバ・ヤーガの小屋」に挿入されて、せっかくカッコいいELPの演奏シーンが台無しになっている。

ソダーバーグの映像処理は、SFというよりレトロ・フューチャー(過去から見た未来)というか、トレヴァー・ホーン的なちょっとシャレた皮肉な雰囲気がある。
あまりジョン・アンダーソンの、本気で地球を救う的な感じや、サーカス的なメルヘン映像とは趣向が違う。
90125時代のミュージック・ビデオも、シャレていて超現実的で内容がつまっているが、どこかイエスとは違うというか、イエスを皮肉っているようなところがあって、あまりノれなかった気がする。
いま見ると変わっててちょっと変わってていい感じだ。



そういえばジョン・アンダーソンにも影響を与えたジョニ・ミッチェルのライヴ・ヴィデオ『シャドウズ・アンド・ライツ』もイントロでなぜかジェイムズ・ディーンの『理由なき反抗』が入っていたのを思い出す。

▶ Joni Mitchell & Shadows and light - Vidéo Dailymotion

このジョニのヴィデオは、ジャコがベース、マイケル・ブレッカーがサックス、メセニーがギターという超豪華なバンドなのだが、急にジョニがコヨーテに餌をやったり、湖でスケートをしたりする映像が入っている。
なごむが、やっぱりもっと演奏してるところを見せろ!と思う。

話をイエスのライヴに戻す。
武道館だった。(※2014-10-21追記:間違いです。代々木体育館でした。訂正してお詫びします。)
バンドはトレヴァー・ラビン中心のハードロックな演奏だが、それなりにノリノリで楽しかった。
「同志」を演奏したと思う。

途中でジョン・アンダーソンが「どんぐりころころ」をア・カペラで歌うという場面があった。
これが「どんぐりこらこら」に聞こえる、音程が少しブルースしているという問題はあったが、ジョンらしくて良かった。

と、書いていて思ったが、記憶がイマイチ定かではない。
どんぐりころころはABWHの頃で、90125イエスの時は「とんぼのめがね」だっただろうか。
まあ、そんな感じの歌を歌っていた。
もしかして世界各地でも現地の童謡を歌っているのだろうか。

クリス・スクワイヤーがベースで「アメージング・グレース」を弾くという、おなじみの、ぼくにはあまり良さがわからないパフォーマンスがあった。
普通ここで、スクワイヤーとホワイトのソロ「ホワイトフィッシュ」、そして初期の大作「スターシップ・トゥルーパーズ」になるという流れだと思うのだが(ざ・ふぃっしゅ!と叫んでいる気の早い観客がいた)、なぜか「アメージング・グレース」に続いて「スターシップ・トゥルーパーズ」の終曲「ワーム」だけ(要するにジャンジャンジャン・・・というギターのリフだけ)という、日本公演特有の露骨な手抜きな展開があった。

昔の海外ロックバンド、特に武道館でやるような大物の日本公演は、なぜか手抜きが多かった記憶がある。
単に日本人が甘く見られているというだけでは説明できない何かがあったような気がする。
会場の使用料や、終演時間の問題とか、警備の問題とかか?
よく分からない。

で、このときはさらに問題があった。
「ワーム」のリフを引きながらトレヴァー・ラビンが客席を練り歩くというパフォーマンスがあったのだが、最後舞台にあがるところでコケて(?)頭を打ってしまったのだ。

さあ客席は大騒ぎである。
全員がアンコールで演奏されるであろう「ラウンドアバウト」を待っているのである。
ジョンが「みなさんにお知らせがあります、さっきギターを弾いていた人が頭を打ちました」と言っていた時も「らうんどあばうとー!」と不満気に叫んでいる観客がいた。
(さっきと同じ人!?)
結局、ジョンがア・カペラで「スーン・・・」と歌ってこの日はシメとなった。



シマるかぁ!
でも日本人は羊のようにおとなしいので特に暴動を起こすこともなく、帰っていった。

ぼくは翌日も同じコンサートを見に行ったが、このときは「ラウンドアバウト」をちゃんと演奏した。

ちなみにこの時のメンバーでの「ラウンドアバウト」は「アトランティック・レコード40周年コンサート」の一幕として日本のテレビでも演奏された。
これが良かった。


サンバ抜きの短縮版だが、めちゃくちゃハイテンションな演奏で、トレヴァー・ラビンのギターがとりあえず異常にうまいことは伝わってくる。



『ビッグ・ジェネレーター』を最後に、イエスに対する興味を失ってしまったぼくだが、イエスはここからがものすごく長い。
何枚もアルバムを出しているし、それ以上にライヴ・アルバムを出している。

こういうバンドは多い。
筋肉少女帯もエディ三柴が抜けてからがすごく長い。
モーニング娘。も安倍なつみが抜けてからがすごく長いのである。

キーボードはリック・ウェイクマンが健康上の理由で引退し、息子のオリヴァー・ウェイクマンに跡目を譲ったりしている。

それより重要なことには、肝心要のジョン・アンダーソンが健康を害し、もうツアーには耐えられないとして脱退した。
しかしクリスもスティーヴ・ハウもバンドを続け、カナダでイエスのそっくりさんバンドをやっていたヴォーカリスト、ベノワ・デイヴィッドをあとがまに据えてツアーを続けている。
(その後ベノワも体調を崩して脱退、いまはさらにそのあとがまの、アメリカでイエスのそっくりさんバンドをやっていたジョン・デイヴィソンが加入。イエスのそっくりさん多いな!)
もはや懐メロ大会であり、プログレッシヴ(進歩的)のプの字もない。
見ればそれなりに懐かしくて楽しいとは思うが、見るに至っていない。

ジョンは健康を回復し、アコギやウクレレでイエスの曲を演奏したり、エコやスピリチュアルをテーマに喜多郎と演奏をしたりしている。
ジョンのソロのコンサートを見たい気もするが、こっちもなかなか機会が得られない。