このシリーズでは、イエスのアルバムをぼくが好きな順に紹介している。
先週お送りした『90125』は好きでも嫌いでもない。
経緯を踏まえるとあれはトレヴァー・ホーンとトレヴァー・ラビンのプロジェクトで、イエスではなかったのだ。

ジョンやケイを無理に呼び戻さず、ラビン、スクワイヤ、ホワイト、そしてエディー・ジョブソンで、ラビンの歌で「シネマ」としてレコードを出していたらどうなっただろうか。
ぼくは産業ロックが好きではなく、エイジアも聴かなかったので、自分では聴かなかったかもしれないが、そこそこ売れたのではなかったのか。

さて今日紹介する『Big Generator』はそろそろ嫌いな部類の作品だ。
好きでもないレコードをブログでくさしたりするのは馬鹿っぽいという話である。
その話は先週書いた。

とりあえず味わいが少ないアルバムである。
このアルバムのプロダクションの途中に、ホーンと他のメンバーの折り合いが悪くなってホーンは降板し、結局ラビンが最後まで作ったそうだ。
すげえなラビン。

M1「The Rhythm of Love」は奇跡的な佳曲である。



ホーンっぽいケレン味とイエスっぽい飛翔感が程よく共存している。
それでもイエスの作品としては水準に及ばない。

ふと思ったのだが、人間は「熱い、世の中を真剣に良くしたい、マジな部分」と、「クールに見られたい、皮肉な、洒脱を気取る部分」の2種類がある。
ジョン・アンダーソンは前者の極にある人で、トレヴァー・ホーンは後者の極にある人ではないだろうか。
だから、うまく混ざると奇跡的な名作になるが、無造作に混ぜると凡作になってしまう。
ぼくは前者である。
だから、正直なところをそのまま表現しようと思う。
どうしても大人になるとかっこよく見られたい欲望が生まれるが、ことさらにニヒルを気取ると本来言いたかったことが伝わらず、かえってカッコ悪くなると思う。
イエスという頂点を極めたロックバンドの作品を聴きながらぼくなんかの人生を考えるのはどうかとも思うが、いまこんなブログを書いていて、そういう発見があって良かった。

Wikipediaには、Rhythm of Loveの歌詞はセックスを意味するので、それにアンダーソンが失望して脱退した、と書いているが、本当かなあと思う。
ぼくにはこの曲が結構イエスっぽく聞こえる。
歌メロの飛翔感、ジョンの声を空に投げるような感じ、「morning、day dream、midnight fever」というフラグメントを紡ぐ作詞法(まあこの歌詞もセックスのことか?)など、イエスの典型的なパターンのように思える。

M2「Big Generator」はずいぶん凝った曲だが、味わいに乏しい。
重苦しい曲である。

このアルバムで疑問なのは、カラッとした脳天気な産業ロックにもなっていないことである。
アメリカ人がこんな曲をカーステレオで流してドライブに行きたいかどうか分からない。

M5「Love will find a way」(ビニール盤ではB面1曲め)はフリートウッド・マックのスティーヴィー・ニックスにラビンが提供した曲である。
ニックスのバージョンは検索しても見つからないので、ボツになったのだろうか。



この曲は、全然イエスっぽくないが、佳曲である。
ラビン本来の持ち味が良く出ているし、歌もうまい。
こういう曲をのびのびとやっていればいい。
ただ、ジョンはこの曲が最初にシングルカットされることを、イエス本来の飛翔感がないのでダメだ、と語っていたそうである。
それもそのとおりだとおおう。

このアルバムで聴きどころがあるのはこの3曲ぐらいである。
M6、M8などはジョンの見せ場をつくろうとしてことさらにぶりっ子な曲をやっているのが痛々しい。
仕事でやってる感がある。
M3、M4、M7が本当にひどくて、メロディの息切れ感が強い。
ラビンやスクワイヤーも含め、みなこの出来には納得していないと思う。

結局ジョンがバンドを脱退し、ABWH(アンダーソン、ブラッフォード、ウェイクマン&ハウ)という、ドリームモーニング娘。的な「元祖イエス」バンドを作って、オリジナルアルバム『閃光』と、コンサート&DVD『イエス・ミュージックの夜』というのをやる。



「危機」、「同志」、「ラウンドアバウト」を演奏する。
オープニングでジョンがハウの生ギターで「ロンリー・ハート」を歌っている。
これは結構ひどいことするな!(笑)と思った。

「イエス」という名前の権利はスクワイヤーが持っていたのだろうか。
ジョンはスクワイヤー側のイエスのことを「90125バンド」という蔑称で呼び「どっちが本物のイエスかは誰の目にも明らかだ」などと語っていた。
ジョンにこういうプロレス的なところがあるというのも意外といえば意外である。

ちなみにABWHのベースは、スタジオでは第3期キング・クリムゾン(ディシプリン)でスティック(ハンマリングのみで弾くベース)を弾いていたトニー・ラビンが、ライブではブラッフォードのソロアルバムで引いていたジェフ・バーリンが担当した。
DVDのクレジットに「トニー・ラビン早く良くなれ」的なことを書いていたので、トニーは体調を崩したと思われる。
どちらもブラッフォードの人脈であり、プログレ界は狭いな〜と思っていた。
ちなみにABWHの仕掛け人は、90125イエスを参集して「ロンリー・ハート」を作らせた、エイジアの仕掛け人でもあるブライアン・レーンである。
すげえなレーン!

ABWHのアルバムは、あまり感心しなかった。
ジョンのメロディがこの頃枯渇していたような気がする。
オープニングの曲など、トーキング・ヘッズのようなワールド・ミュージック感が取り入れられているのだが、取ってつけた感が否めない。
あとテレビのニュース番組で使われた「Order of the Universe」は産業ロック風味が強く、結局あまりジョンのいわゆる90125バンドと変わらないような気もした。

このあとイエスは20周年企画としてアンダーソン、スクワイヤー、ラビン、ケイ、ホワイト、ブラッフォード、ウェイクマン、ハウという8人イエスを結成する。
筋肉少女帯の「大釈迦」のようなお祭りプロジェクトである。
ここからイエスは聴いていない。

この頃にはぼくはイエスに興味を失い、カルチャー・クラブやシンプリー・レッド、プリンスやスティーヴィー・ワンダー、マイケル・ジャクソンを普通に聴いていた。
一度ソウルにハマるとロックを聴くのが恥ずかしくなってくる。
第2期中二病のようなものだ。
その後90年台にニュー・ジャック・スイングというのが流行って、R&Bのメロディがすごく悲しくなったので聴かなくなった。
音楽の聞き方がビニールのレコードからCDの時代に変わり、レコード屋でなくアマゾンで買うようになると、いくらでも昔の音楽に遡れるし、昔と違って価値観が多様化したので、あまりトップ10ヒットを追いかけなくても良くなる。
野球が衰退してJリーグのサッカーが勃興したのもこの頃である。
レコード大賞を誰が取ったかもわからなくなった。
近所の人と音楽の話をしなくなり、ネット経由で見知らぬ人とするようになった。
結局プリンス、カーティス・メイフィールド、スライ&ファミリーストーンのような昔のソウルばかりをヘビロテで聴くようになる。
そのうちソウルも甘く感じられるようになって、ジョー・ザヴィヌルやマイルス・デイヴィスにハマり、現在に至る。

イエスを振り返ると『危機』、『海洋地形学の物語』、『リレイヤー』、『究極』、『トーマト』の時代、ハウとアンダーソンの関係が良好で、ハウのプレイが生きが良かった時代だけが聴くべきイエスだったような気がする。
特に『究極』である。
このアルバムにはイエスのすべてがある。

後年オーケストラと一緒に演奏した『マグニフィケイション』も結構素晴らしい。
当時やっていたオーケストラとのライブも結構よかった。
よくレビューに書かれているが、このオーケストラには美形の女子が多い。
どこから見つけて来たのだろうか。



ただ、「これがジョンが本来やりたかったイエスだ」と何かのレビューに書いてあって、それはちょっと違うと思った。
オーケストラとの演奏はどうしても即興性に乏しく、楽しくはあるけど発見がない。

ぼくがイエスに再度興味をもったのは、アンダーソンが3回目の脱退をし、カナダでイエスのそっくりさんバンドをやっていたベノワ・デイヴィッドが代わりに入ったとか、再びホーンがプロデュースしてドラマ時代の曲をレコーディングしたという、ゴシップ的なニュースきっかけである。
新イエスのレコードは一生懸命聴いたのだが、ぼくには良さが分からなかった。

ホーンが書いた新イエスの「Fly from here」のパート2となった「Sad Night at the Airfield」という曲はホーンがプロデューサーズで演奏し、歌っている。



ぼくはイエスの真逆だと思っているホーンだが、真剣に二代目イエスになろうとしていたことが伝わってくる。
それなりにイイ曲だが、やはりイエスっぽくはないし、さりとてホーンっぽくナウい感じもしない。
ジョンも「ホーンのプロダクションはもう古い」的なことを何かで話していて、それはそのとおりだと思った。

イエスの再再再復活はあるのだろうか。
ジョンもエコとかスピリチュアル、ヒーリングの方に本格的に進出してしまったので、もうあまり望めないと思う。
(ソロ作品をためしに聴いてみたが、あまり面白くない。身銭を切らなくてもYouTubeで簡単に聴けてしまうのが良くない気もするが・・・)
完全に還暦を過ぎた人に、ロックバンドと共にワールドツアーに出て、あの高音で歌い続けろというのも虐待的な話である。
それよりも70年代のイエスを聴き込むほうがいいと思う。
いま「Awaken」を部屋に流してもすこしも古い気がしない。
そのすごさをしみじみ味わうのがいいと思うのである。



Yes Live at Columbia, SC (1974) (3984563705)