このシリーズでは、イエスのアルバムをぼくが好きな順に紹介している。
今日紹介する『こわれもの』は制作年代としては一番古く、1971年のものだ。


いままで紹介してきたアルバムを年代順に並べると

 『こわれもの』=====キーボードがトニー・ケイからリック・ウェイクマンに変更
 『危機』・・・・・・・・メンバー変更なし
 『海洋地形学の物語』==ドラムがビル・ブラッフォードからアラン・ホワイトに変更
 『リレイヤー』・・・・・キーボードがリック・ウェイクマンからパトリック・モラーツに変更
 『究極』========キーボードがパトリック・モラーツからリック・ウェイクマンに変更
 『トーマト』・・・・・・メンバー変更なし
 『ドラマ』=======ヴォーカルがジョン・アンダーソンからトレヴァー・ホーンに、キーボードがリック・ウェイクマンからジェフリー・ダウンズに変更

という状態である。

『こわれもの』、『危機』の

  ジョン・アンダーソン:ヴォーカル
  スティーヴ・ハウ:ギター
  クリス・スクワイヤー:ベース
  ビル・ブラッフォード:ドラム
  リック・ウェイクマン:キーボード

の状態が、イエスの黄金時代と言われている。
ぼくの考えは少し違っていて、バンドのピークは『リレイヤー』から『トーマト』までであると思う。

『こわれもの』はカヴァー・アートを6人目のイエスと言われるの幻想画家ロジャー・ディーンが初めて手がけている。
だが、後のリアルな画風ではなく、まだちょっと手描きっぽい味わいの作風である。
YeSロゴもまだ完成をみていない。
画像では地球が壊れていて、その上に巨大な羽のついた船というイエスのジャケットによく登場する乗り物が動いている。

ディーンの画風および例の丸っこいYeSロゴが完成するのは次の『危機』においてであり、世評では『危機』がイエスの最高傑作ということになっている。
ぼくはなんと言っても『究極』が一番好きだ。

『こわれもの』原題はFragileであり、壊れ物の荷物に貼ってあるシールの言葉である。
Every Little Thingのシングルと同じ題名(ELTがイエスから取った?)であるが、ELTはフラジールと発音している。
しかし英語ではフラジャイルが正しいようだ。

fragile - Definition and pronunciation | Oxford Advanced Learner's Dictionary at OxfordLearnersDictionaries.com

ジャケットから見ると、地球の環境が壊れそうだからみなさん大切にしましょう、というジョンらしい意図を感じるが、ウェイクマンによるとFragileとはその当時のバンドの人間関係のことのようだ。

M1「ラウンドアバウト」が何と言っても有名である。
これはバンドの出世作であり、キング・クリムゾンの「21世紀の精神異常者」(のちに「21世紀のスキゾォイド・マン」に邦題が変更)、10CCの「アイム・ノット・イン・ラヴ」、ピンク・フロイドの「マネー」と並んで、70年代のプログレッシヴ・ロック史上に燦然と輝く名曲中の名曲である。
そういえば最近アニメ版『ジョジョの奇妙な冒険』のエンディング・テーマに取り上げられてちょっと流行った。



オープニングのアコースティック・ギターから引きずり込まれる。
アコギの微妙な音が聴く取れる静かな曲でありながらこの疾走感がすごい。
ライヴでは全部エレキギターで演奏するわけだが、後期はハウがアコギを空中に固定する装置を導入して持ち替えて演奏している。
ぼくはライヴならではのエレキギターの演奏の方が好きだ。

この曲を素人バンドで演奏しようとしたことがあるが、絶対に無理だった。
こういう正確さ、真面目さが要求される曲をちゃんと演奏するのは至難の業である。
この曲とディープ・パープルの「BURN」は本当に難しい。
レッド・ツェッペリンやクリームのブルージーな曲の方が、芸術的には上という気がするが、演奏してみると「ラウンドアバウト」や「BURN」などのキャッチーな曲をちゃんと聴かせるのはめちゃくちゃ難しい。

この曲には美しいコーラス、ポップさとクラシックとロックの融合性、演奏の異常な上手さというイエスの要素がすべて入っている。
9分というコンパクトさも素晴らしい。
ただ、あまりにもこの曲がイイので、この曲が超えられなくて(愛され過ぎて)バンドは今後何十年も苦しむことになる。

題名の意味は「イギリス式の円形交差点」のことだが、歌詞がサッパリ良くわからないのも相変わらずである。

【アニメ版ジョジョ】イエスのROUNDABOUTの歌詞が深いッッ! - NAVER まとめ

あまり深い意味はないのだろうか。

M3「南の空」も名曲だが、甘さを廃した厳しい感じの曲だ。
必死で雪山登山をする人のことを描いた歌だそうだ。



中間部がピアノ中心の静かな曲調になって、スキャットのコーラスになるところが素晴らしい。
イエスの特徴は演奏と同様に歌、それもジョン、ハウ、スクワイヤーによるコーラスを重視するところだが、ブラッフォードは「イエスはコーラス・グループであるとして、クリムゾンよりも下に見られていた」という意味の発言をしている。
ただ、ハウとスクワイヤーは歌と演奏を両立することに特別な意味を見出していて、それがイエスを他のバンドと一線を画している。

終盤のハウのオブリガードが独特で面白い。

M5「遙かなる思い出(long distance runaround)」はイエスが最もライヴで演奏する曲ではないだろうか。



ビートルズ的なユーモラスな曲だが、ぼくはどうもこの曲の良さが分からない。
演奏がうまいのは分かるのだが。

M8「燃える朝焼け(Heart of the Sunrise)」も有名な曲だ。



この曲はオープニングのギターのリフと、その後のベースのリフが超有名で、あまりにもテレビのCMやクイズコーナーなどで多用されているので、逆に正面切って聴こうとするとちょっと笑っちゃうようなところがある。
これが昔の名作ロックにありがちな現象である。

題名は、映画『地獄の黙示録』の元ネタになったコンラッドの小説『闇の奥(Heart of the Darkness)』から取られていると思うが、あまり深い意味はないのではないだろうか。
とりあえずカッコいい言葉だから入れてみたと思われる。

この曲はウェイクマンのイエスとの初セッションだそうだが、本当だとしたら息が合い過ぎである。
イエスに入るために生まれてきたような男、リック・ウェイクマンの演奏が光っている。

このアルバムはイエスの4枚目だが、3枚目まではトニー・ケイがキーボードを務めていた。
ケイはハモンド・オルガンの使用にこだわり、シンセサイザーに興味を伸ばさなかったからウェイクマンと変えられたという話である。

ウェイクマンは装飾的な大向う受けをする演奏がうまいだけで、音楽的な才能はキース・エマーソンやパトリック・モラーツの方が上という話であるが、ぼくはその差は良く分からない。
ただ、イエスというバンドでの演奏は、やはりウェイクマンには余人には代えがたいものがある。
渡辺貞夫氏が「ジャズは気が合わないやつ同士でもテクニックで結びついてすごい演奏をすることがあるが、ロックは友情で結びついてやる音楽である」という意味のことを言っていたが、イエスほど洗練されたバンドであってもそれが当てはまっていると思う。

さまざまなテーマが繰り返し組み合わされて盛り上がるのがイエスの手法だが、それがこの曲あたりは最もうまく言っている。

さて、『こわれもの』で良く分からないのがこの名曲群に挟まっている各メンバーのソロコーナーである。

M2「キャンズ・アンド・ブラームス」はウェイクマンがキーボードの多重録音でブラームスの交響曲第4番第3楽章を演奏したものである。
なごむ演奏だが、本当にクラシックで、ロック的でなく、ちょっと演奏が下手なところがあって、良さが良く分からない。

M3「天国への架け橋」(We Have Heaven)はジョンがヴォーカルの多重録音で「We have heaven」、「He is here」と言った宗教的な言葉を歌う曲である。
これもビートルズ的な曲だが、良さが良くわからない。

M5「無益の5%」(5 percents for nothing)はブラッフォードのドラムをフィーチャーした32小節の曲で、なかなかフュージョン的で聴き応えがある。

M7「ザ・フィッシュ」はスクワイヤーがベースの多重録音で演奏した曲で、最近のライヴでもよく演奏される。
(最近はアラン・ホワイトのドラムソロと組み合わせた「ホワイト・フィッシュ」として演奏されるそうである。)

このM3、5、7といった曲は、メンバーの演奏の腕をちょっと見せてみました、という感じで、メロディも乏しく、音楽的な必然性を感じないのである。
こういう曲が挟まっているところが、「ラウンドアバウト」、「南の空」、「燃える朝焼け」という名曲中の名曲群を一枚に収めた『こわれもの』というアルバムの価値をやや下げていると思う。

M8「ムード・フォー・ア・デイ」はスティーヴ・ハウのアコギソロで、スパニッシュ全開の曲である。



これは『こわれもの』のソロ作品の中では別格で、1曲の音楽として非常に良く出来ている。
単なる演奏自慢に留まらないところがある。
この曲が入らない『こわれもの』は少し考えられない。
ハウのギターは実はヘタクソという評判が日本の古手のロック・ファンの間であるが本当だろうか。
とりあえずぼくはイエスをイエスたらしめているのはウェイクマンのキーボードとハウのギターだと思う。
大好きな曲だ。

ということで、世評が高い割にぼく内イエスランキングでは第7位まで下がってしまった『こわれもの』の紹介は以上である。
イエスは大作主義で、長大な曲にアイデンティティを見出していたバンドで、そういう意味ではこのアルバムの収録曲はまだまだ短い。
そういう意味で、のちに長編で名声をなすことになる大作家の「初期短篇集」という趣きの一枚である。