今日(2014年4月18日、金曜日)、原宿「the sad cafe STUDIO」で上演された劇団☆A・P・B-Tokyo公演「観客席」の初日を見た。

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「観客席」は3月に「演劇実験室◎万有引力」が演じていた寺山修司の演目で、2箇月連続で同じ演目を違う劇団で見ることになった。
寺山修司を専門にやっている劇団は東京中にひしめいていて、特に去年2013年が寺山没後30年ということもあって、こういう現象はしょっちゅう起こるのだが、実際に同じ演目を違う劇団で毎月見るのは初めての経験である。

同じ演劇の公演を2回以上見たり、同じ劇団の違う公演を見たりすると、演劇が立体的に捉えられて、よく分かる。
ことさらに演劇を「分かって」見る必要はないのかもしれないが、ぼくはわりと分かることが面白さにつながると思う方だ。

劇団☆A・P・B-Tokyoといえばザムザ阿佐谷で「身毒丸」、「青ひげ公の城」、「毛皮のマリー」、「田園に死す」の4作を見ていた。
また、月蝕歌劇団の「百年の孤独」、「家出のすすめ」もザムザで見ているので、なんとなく習慣で阿佐ヶ谷に行きそうになってしまった。
パンフレットによるとA・P・Bは2003年からザムザで演じていたそうで、10年間やっていた古巣を離れたわけだ。
原宿という、日本で最高にキャピキャピした街で、寺山演劇の世界がどう展開するか興味津々であった。

ラフォーレとABCマートの間を通って20mほど歩くとsad cafeが見えてくる。
カフェ&パーティールーム&ライヴハウスみたいなところだ。
客席はフラットで狭かったけど、現代的な感じで雰囲気が変わって良かった。

演目も現代的で刺激があって良かった。
寺山修司というと、江戸川乱歩と並んで、わりと最近の人なのに懐かしいというか、昭和レトロ的な雰囲気で捉えていたが、「観客席」は単に現代的というのを超えていて、いままさに演じられるスピードで演劇がその場で作られるようなフレッシュな感じがある。

万有引力版を見たときにも書いたが、この演目は全体が壮大なネタというべきメタフィクションであって、1行も内容を書くことがはばかられる。
A・P・B版は来週月曜(21日)までやっているので、機会があったら見に行った方がいい。
見に行く人は、以下のネタバレ部分は読まないでください。







演目「観客席」は、題名で分かる通り、演者と観客の関係を問いなおすものだ。

個人的な話になるが、ぼくは劇評とか○○評的なことをネットに書く。
書くことじたいはいいことであって、素直に書けばいいのだが、いつも、こんなふうなことを書いたら頭が良く見えるんじゃないかなあとか、こんなふうに書いたらナルホドと思われるとか、どうしようもなく気にしてしまう。
そればかりか、見ている最中も「終わったらネットになんて書こう」的なことを考えるようになる。
これは良くない。

島本雅彦氏のマンガ「アオイホノオ」に、マンガ家志望の青年が、上京して出版社にマンガを持ち込みに行ったけど相手にされなくて、名画座にスタローンの「ロッキー」を見に行く場面がある。
その時、「ロッキー」が意外に染みて、立ち上がってロッキーを応援しながら、「いままで俺は映画を見るたびに、この映画は何と同じだとか、何てるとか、そういうことばかり考えていたが、それではかえって本質を楽しめなかった」的なことを思う場面がある。

「観客席」の中でも、観客の安心しきった傍観者的な態度や、安い劇評の決まり文句を、しつこく糾弾される。
ぼくは、その演劇を見ている、まさにその瞬間に、さあこれから家に帰ってなんとなく劇評的なものを書こう、なんて書いたらもっともらしいかなあと思っていたわけで、だからこそ、かえって、この演劇の内容が異常に染みた。
個人的な感動があって面白かったのである。

A・P・B版は万有引力版よりもバラエティ的な笑いがふんだんに盛り込まれていて良かった。
同じ戯曲でもまったく内容が違う。
両方見てかえって面白かった。

往年の欽ちゃんばりの盛大な客いじりであって、客も何をされるか緊張するが、緊張があるからかえって爆笑が起こって、ノリノリで見ることが出来て、内容が深く心にしみた。
これ以降見る全部の観劇や、大げさになるかもしれないけどあらゆる体験の受容のしかたに影響をおよぼすような観劇だった。
このブログ記事も、ちゃんとした劇評になっているか分からないけど、別に気にしない。