今日もイエスのアルバムを紹介するが、その前に一言オワビ。
何枚かイエスのアルバムを紹介してきたが、これから買うのであれば、下のボックス・セットを買ったほうが絶対にお買い得である。

ウェザー・リポートのアルバムを紹介したときも同じ現象があった。
ぼくはオリジナル・アルバムを買っているので気づかなかったが、上記のアルバムは12枚いりで4500円という超・破格盤である。
以下のアルバムが入っている。(※太字は拙ブログで紹介したもの。)

 イエス(デビューアルバム)
 時間と言葉
 ザ・サード・アルバム
 こわれもの
 危機
 海洋地形学の物語
 リレイヤー(※今回紹介)
 究極
 トーマト
 ドラマ
 ロンリー・ハート(90125)
 ビッグ・ジェネレーター

イエスの歴史はまだまだ続くが、ぶっちゃけ、プログレッシヴなバンドとしてイエスが元気があったのはここまでという気がする。
このボックスセットはお買い得である。
オススメ。

さて、今日は7枚目の「リレイヤー」を紹介する。
「海洋地形学の物語」と「究極」の間に出たアルバムである。

メンバー的には、「海洋〜」のレコーディング中にリック・ウェイクマンが脱退してしまったので、代わりにパトリック・モラーツが入っている。
メンバーの変遷はこうなっている。

ドラムス キーボード
危機 ビル・ブラッフォード リック・ウェイクマン
海洋地形学の物語  アラン・ホワイト リック・ウェイクマン
リレイヤー アラン・ホワイト パトリック・モラーツ
究極 アラン・ホワイト リック・ウェイクマン

パトリック・モラーツはもともとリフュジーというバンドにいたそうだが聞いたことがない。
YouTubeを検索してみたが、プログレとフュージョンの中間のような音楽だ。
下の動画の2分ぐらいからキーボード・ソロである。



あと現代音楽のピアノを弾いてる動画もあった。



スーパー・キーボード・プレイヤーとして名高い人だ。

『リレイヤー』はイエスの歴史の中でも最も音楽的に高度で、難解で、緊張感あふれる作品である。
単純に音楽の高度さと演奏の見事さで言えば一位なのではないだろうか。
キング・クリムゾンの『太陽と戦慄』などとも双璧をなす、ロックの歴史上の偉大なマイルストーンである。

ビニール・レコードで言えばA面1曲、B面2曲という、『危機』と同じ構成である。

1曲目の『錯乱の扉』は「戦争と平和」(トルストイの小説ではなく、war and peace)がテーマだと言われている。
しかし、それが正しければ、ずいぶんジョン・アンダーソンは好戦的な人だということになる。
前半はずいぶん猛々しい、人を鼓舞する音楽である。



まあ、あまりジョンの詞の世界のことはよくわからないので、深入りしない。
それにしても、スゲー音楽である。
とりあえずスティーヴ・ハウが好き放題にギターを弾いている。

イエスの歴史の中でも、モラーツのジャズ的な才能の影響を受けてか、即興的な演奏が多く入っている。
あと、ジョンのマルチ・プレイヤーとしての才能も見逃せない。
当時のライヴ映像や、CDにボーナス・トラックとして入っているリハーサルの模様を聞いても、ジョンがギター、パーカッション奏者として多くのパートを受け持っているようだ。

途中、「ロックバンドを破壊するような音」が入っている。
イエスはプログレの中でも、美しい、優美な、音楽をやっていて、あまりプログレじゃないんじゃないかという議論もあったが、この曲の中盤のアグレッシヴさは特筆すべきである。
ここまでやり放題やっているレコードもめずらしい。

騒乱のあとで、有名な「Soon」のパートになる。
これはシングル・カットされたり、しばしばコンサートでも取り上げたりされている、有名なジョンの美しいバラードである。
ハウのヴォリューム奏法(ヴァイオリン奏法)によるギターも美しい。

2曲めの「サウンド・チェイサー」は間違いなくイエス最大の難曲であろう。



この曲を当時のイエスは平然とライヴでやっていた。
(ジョンがフルートを吹いていた)

アラン・ホワイトはドラマーとしてはブラッフォードよりもずいぶん格下と言われることが多いが、ぼくはよく分からない。
この曲を普通に演奏するドラマーはものすごいテクニシャンなのではないだろうか。
とりあえず忙しい曲である。

3曲めの「to be over」は1曲めの「soon」のパートを引き継ぐような美しいパートからドラマチックな展開を見せる曲で、本アルバムで最もイエス的、ジョン的な曲である。
コーラスや、スライド・ギターも美しい。



『リレイヤー』はイエスのアルバムの中でもメンバーのテンションが非常に高い名盤だ。
イエスは人気が高く、神格化されているので、新しいメンバーが入っても評価されるのがとても難しいが、モラーツは非常に馴染んでいたと思われる。

ただ、この後バンドとしては新作がしばらく出ず、各メンバーのソロ・アルバムが出たり、初期の曲を集めたコンピレーション・アルバムが出たりしている。
結局ソロ・アルバムの中で、モラーツの『i』が高い評価を受け、彼は『リレイヤー』1作のみでイエスを去ることになる。
モラーツは次作の『究極』のプロダクションにも参加し、表題曲の「究極(Going For The One)」のことを「新時代の”ラウンドアバウト”だ」と、『こわれもの』に収められているイエスの最も有名な曲になぞらえたりしていたので、イエスでの活動にノリノリだったと思われるが、セッション中に方針の違いで脱退したようだ。
結局セッション・マンとしてリック・ウェイクマンが呼び戻され、その後イエスに正式に復帰することになる。

モラーツ時代のライヴ映像が面白い。
「危機」をやっている。



これが、YouTubeのコメント欄などを見てもものすごく評判が悪い。
ロック・ファンは妙に保守的なところがあって、過去の名作を冒涜されたと思うようなことがあるとものすごく非難するところがある。
ぼくはこの風潮が、あまり肌が合わない。
たしかにモラーツの演奏は、シンセの音色の選び方などがちょっとウェイクマンと全然違うので、最初聞くと違和感があるが、キーボード奏者としてのテクニックは神がかり的だし、イエスの音楽を確かに消化した上で創造的な演奏をやっているので、これはこれで面白い。
最近のジョン・アンダーソン抜きの”イエス”の演奏よりは本来的な意味でプログレッシヴで好感が持てるのである。

ただ、モラーツ参加時代のライヴ映像はブートかと思うほど音声が悪く、2タイトルにわかれていて、値段も妙に高いので、万人にオススメというわけではないが、もう一つありえたかもしれなかったイエスの可能性を感じる刺激的な演奏で、ぼくはこのDVDを見るのが大好きである。