マーチン・ガードナー著「新版 自然界における左と右」を、いまさら読んだ。
まだ読み中である。

桜木町のモールに入っている紀伊國屋書店で買っていたのだが、面倒そうな本なので積ん読になっていた。
数年前に自炊代行業者に電子化してもらって、iPad miniに入れていたのを、電車の中で偶然発見して読み始めた。

マーチン・ガードナーと言えば、数学者で、科学エッセイストで、アマチュア手品師で、新興宗教や占いを懐疑的な立場で批判した「奇妙な論理」や、アハ体験という言葉のもとになった数学クイズの「aha!」、「不思議の国のアリス」、「鏡の国のアリス」にドジソンと同じ数学者の立場から注解を施した「新訳・不思議の国のアリス」など、おびただしい名著がある。
アイザック・アシモフやカール・セーガンと並んで、元祖サイエンス・コミュニケーターのような人である。

左と右といえば、鏡に映る自分の姿が左と右が逆になるのに、なぜ上と下は逆にならないのかという問題が有名である。
ぼくもこの問題についてスッキリした答えが出なかった。
ガードナーの本はこの問題について答える気マンマンであるが、最初にすぐ答えるでもなく、最後まで引っ張るわけでもない。
500ページぐらいの本の、60ページぐらいで答えが出る。
それまでは左と右とは何か、対称とは何かについて丁寧に説明を積み重ねていて、満を持して鏡の問題が出てくる。

そこまでに、左右ウンチクがいろいろ出てくる。

左右ウンチクとはなんだろうか。
たとえば飛行機は進行方向に向いて右に緑、左に赤の電球を灯すことになっているそうだ。
(左翼がアカというのはここから来ているのか、と思ったが、たぶん違うと思う)

車の車軸に、車輪をネジ止めしている車では、進行方向に向いて右側の車輪が右ネジ(普通のネジと一緒)、左側の車輪が左ネジになっていることがあるそうだ。
というのは逆にすると走ると回転の力で緩んでしまうからだそうだ。

電球はほとんど普通のネジと一緒で右ネジになっているが、ニューヨークの地下鉄の電球は昔は左ネジだったそうだ。
というのは、盗んで帰って家で使おうとしても使えないようにしていた。

へー!

こんな話がたくさん書いてあって、面白い。

サイコロの光学異性体の話がある。

天神のページ : 右サイコロと左サイコロ

サイコロは立方体に1から6までの数字を、平行な面の和が7になるように作る。
1の裏は6に、2の裏は5に、3の裏は4になる。
このルールに従うと、サイコロが2種類出来る。
上が1になって、手前に辺が来るようにしてサイコロを見ると、左が2で右が3になるサイコロと、左が3で右が2になるサイコロだ。

大昔のサイコロはこの2種類がマチマチだったそうだが、今の賭博につかうサイコロは左が2で右が3になるように(上に説明した置き方で左回りで1=>2=>3になるように)出来ているそうだ。
(でも上のWebを見るとダイソーでは両方のサイコロを売っていたらしいが・・・)
左回りに1=>2=>3になるサイコロと、左回りに1=>3=>2になるサイコロは、面対称になっている。

で、肝心の鏡の左右逆転の話だが、ぼくはこの本を読んで一応理解したと思う。
理解したところを書いてみる。

もし、あなたが、左手にだけグローブをはめて、東に向いていたとする。
で、鏡が目の前にあったとする。

このとき、あなたの胸は東、背は西、グローブをはめていない手は南、グローブをはめている手は北、頭が上、足が下の方向にある。

目の前に鏡があるから、鏡は西に向いている。
鏡の中のあなた(鏡像)は、胸は西(手前)、背は東(向こう)、グローブをはめていない手は南、グローブをはめている手は北、頭は上、足は下の方向にある。
つまり上下左右は反転せず、前後(東西)が反転しているのである。
なぜなら、鏡が前にあるからだ。

もし天井に鏡があるとする。
このとき、さきほど同様、あなたの胸は東、背は西、グローブをはめていない手は南、グローブをはめている手は北、頭が上、足が下の方向にある。
つまり、前後左右は反転せず、上下が反転している。
なぜなら鏡が上にあるからだ。

鏡は前か後にあると前後を反転する。
上か下にあると上下を反転する。
左か右にあると左右を反転する。
向かっている方向について反転が起こる。

1=>2=>3サイコロを鏡に移すと、1=>3=>2サイコロになる。
この1の面を上にすると、鏡像のサイコロは1に対して2と3が逆転するので、左右が逆転して見える。

20140401dice1


しかし鏡の位置を上に置いても、結局鏡像のサイコロは1に対して2と3が逆転する。
この場合は上下が逆転して見える。

20140401dice_a


どちらも同じ裏返しのサイコロになっているのだが、人間が見やすい方向に考えているだけだ。
お分かりだろうか。
そういうことらしいよ。

ガードナーの本に戻るが、この本はこの先DNAや素粒子のパリティのような、自然界における左と右について研究するらしい。
先を読むのが楽しみである。