以前、薬局に浣腸を買いに行く必要があった。
生きてたらそんなことぐらいあるじゃないですか。
夜遅かったので、開いている薬局が近くになく、おなかが痛いのにトボトボ歩いて回った。
国道沿いにドラッグストアがあったので、入ると、男子高校生と思しきアルバイトがひとりで店番をやっていた。
店長はメシでも食いに行ってたんじゃないだろうか。
例外的な状況だとは思う。

とりあえず男子高校生に「浣腸をくれますか」と言った。
すると、ぶっきらぼうに「カンチョーって何ですか」と言い返された。
「耳を疑う」とは、こういう時のことを言うのかと思った。

年を取ると、若い人が社会に出てきて、自分の知っていることを、若い人が知らないので、イライラすると聞いてはいた。
しかし、浣腸という基本的な言葉でそれが起こるとは思わなかったのである。
「浣腸知らない世代」の台頭だ!

とりあえず馬鹿正直に「便秘を解消するために、お尻から入れる液体です。ゴムのスポイトに入っています。イチヂクってメーカーが有名なんだけど、大きな箱に入っています」とか何とか言ってみた。
まだ不審そうにしているので、ちょっとぼくもイライラして、自分で探して、「それ、そこの青い箱だよ」ときつい声を出してしまった。
男子高校生は明らかにご機嫌を損ねて、箱をドスンとレジに置いたので、「いくらですか」と聞いて、買って帰った。
相当イライラした。

いま、薬をネットで販売できるかどうかが問題になっている。
楽天やアマゾンで風邪薬が買えたら、寒い日に家から出なくていい。
お年寄りとか助かるのではないだろうか。

でも法律で禁じられているのである。
薬は危険なものだから、リアル店舗の薬局で、プロの薬屋さんが客と相対で対面する必要があると言う。

でも、調剤薬局は別にして、風邪薬とか浣腸とか売ってる薬屋さんってそこまでプロですか?

ぼくの「男子高校生の店番カンチョー知らない事件」などという特殊なケースから敷衍して、薬屋さんなんかイーカゲンだからネットで売っても大して変わらないよ、と言い募るのはたしかに暴論だろう。

でも、薬屋さんがいるから安全、というのはおかしいと思う。
風邪薬とか、あれください、と言ってお金を出せば、買えないことはまずない。
子供でも買える。
買えなきゃ困る。
タバコや酒と全然違うのである。

仮に、売るときに「風邪薬は1日3回までにしてくださいよ」、「4時間は空けてくださいよ」と言うことがめちゃくちゃ大切だったとしよう。
しかし、薬なんか1回買ってもそうそう飲み切れない。
最初に買った人が飲み方を守っても、けっきょく家に放置され、誰か別の人がむちゃな飲みかたをするかもしれないのだ。
そういうリスクをもともと内包している商品なのである。

ネットで薬を家まで持ってきてもらえることで、寒いなか薬局まで行かなくて助かる病人と、変な薬の買い方をして危険にさらされる病人、どっちが多いだろうか。
結局リスクとベネフィットの問題であって、だったら現状の薬の売られ方からかんがみて、ネット販売ぐらい許せばいいのではないか。

自由社会なのだから自己責任、と最近は政治家がうるさく言うのに、風邪薬ぐらいのことで国民をここまで守ってくださろうとするのはちょっと変である。
守っているのは薬業界の既得権ではないか、それは薬屋さんに何らかの鼻薬を効かされているのでは、と、ありきたりなことを思う。

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