以前にも書いたが、執筆をやっていて疲れたり煮詰まったりするとマンガを読む。
元気が出たらまた仕事に戻る。
マンガドーピングである。
Manga-movement
とうぜん友情、努力、勝利を肯定的に捉えた少年マンガが良い。
気持ちが沈んでるときにつげ義春とか蛭子能収とか読んでると抜け出せなくなってしまう。
これまでは河合克敏『モンキーターン』などのスポーツマンガを読んでいたのだが、最近ハマっているジャンルがある。
マンガ家マンガである。

マンガ家が、マンガ家になるまでや、苦労して作品を生み出すところを描いたマンガである。
これが、小説家小説や、映画監督映画に比べてすごく多い。
なぜだろう。
興味深い現象だ。

当然マンガだから面白おかしく、感動的に描いているのだが、細かいところで本当に参考になる。
ペンの使い方やストーリーの作り方といった部分ではなく、どちらかというと「スランプからの脱出の仕方」などの精神的というか心理的な部分で参考になるのである。

古典としては藤子不二夫(A)の『まんが道』とか、梶原一騎原作の『男の星座』だろうが、古すぎて参考にならない気がする。

この分野に目覚めたのは、なんと言っても『バクマン』である。



実名のジャンプ編集部を筆頭に、とにかくリアルに描かれている。
ただ、あまりにもリアル路線のために、逆にここがおかしい、という指摘があってそれも面白い。

ネットで指摘されていたのは「この世界には同人誌や即売会が出てこないのがおかしい」という話だった。
『バクマン』にはインターネットやアニメ、声優の世界などがバンバン出てくる。
それなのに、同人作家が出てこない。
とにかくマンガ家として成功するにはメジャーの週刊雑誌に連載を持つこと、それもジャンプ、という世界観が貫かれている。
たしかにおかしい。

それを補完するように、徹底的に同人誌、それもエロ同人の世界を描いたのが、最近話題の『同人王』だ。



これはもともとエロ描写を含む同人誌として発表されていたものを、一般向けに編集再構成してメジャーの大田出版から出版したものだ。
電脳マヴォというサイトで前半がほとんど公開されている。

この作品は『バクマン』に比べるとシュールなギャグで埋め尽くされているが、韜晦的なギャグの下にあるメッセージは苦く、熱い。
「立体的な絵を描くことは世界を捉えること」、「努力は才能のない人にとって甘い飴なのかもしれない」などというメッセージは強烈だ。

さて、この世界の第一人者は島本和彦だ。









なぜかすべてKindle版が出ている。
幅を食い、あっと言う間に読んでしまうマンガこそ電子書籍になって欲しいので、うれしい。

最新作『アオイホノオ』(連載中)は主人公の焔 燃(ホノオ モユル)が大阪芸術大学に通いながらジャンプやサンデーに持ち込みをするところが描かれている。
ビデオデッキが普及してなかった頃、テレビ番組を記憶してスケッチし、同人誌を出していた第1次オタク世代が出てくる。
ぼくは知らなかったのだが、庵野秀明、赤井孝美、山賀博之といった、のちにガイナックスでエヴァンゲリオンなどを大ヒットさせるダイコンフィルムの人々が島本氏と同級生だったのである。
3人組は、焔青年を脅かして絶望感を抱かせる圧倒的なライバルとして常に登場する。
島本氏のような天才的な才人が、この3人に対する劣等感の固まりとして自らを描いているのだ。

『燃えよペン』、『吼えろペン』はプロになってからの炎尾 燃の物語だ。
銀行強盗に襲われながら銀行でマンガを描いたり、政府に拉致されながら兵器としてのマンガを描かされたり、明らかに超現実的なギャグマンガなのだが、随所に実作者ならではの心情が出てくる。

面白いのが『新・吼えろペン』の最終回で、明らかにそれまでの島本氏の主張を覆すような行動を炎尾が取ったまま混沌として終わってしまう。
そして、なぜこのような最終回になってしまったのか、その最終回がどんな反響を呼んだのかという短いエッセイマンガとともに、本来の最終回が収録された別冊が『サンデーGXコミックス CHRONICLE 吼えろペン』だ。



これが本当に面白い。
これまで面白おかしく、超現実的な逆として読んできた炎尾 燃の物語が、意外と現実を、普通は語られない舞台裏を描いていたと分かる。
そして、それが作者としては不本意に暴かれてしまうところが本当に面白い。

反対に、マンガ界のダークな面を極端に描いたのが唐沢なをきの『まんが極道』だ。



これもすごい。
モデル作品は、ぼくは世情にうといので何の話なのか全然わからないが、「今に見ていろ俺だって」と思っていながら自分では何もせず、批評にだけは長けていくオタクの姿をこれでもか、これでもかと醜く描いているところに、逆に筆者の熱い愛を感じる。

マンガ家マンガは面白い。
傑作を生み出す構造があるのだろう。
すべてのマンガ家に描いてもらいたい。

あっそうそう、もちろん吾妻ひでおの『失踪日記』、『地を這う魚』も面白い。





『地を這う魚』は友人マンガ家がすべて動物として描かれていたり、夜の東京に魚が泳いでいたりする。
吾妻マンガを読んできた自分には、だからかえって、吾妻氏が上京してきた頃の東京が生々しく描かれている気がする。

永井豪『激マン』はまだ読んでない!読まなくちゃ!