連載の第11回。
今回はアルバム『Weather Report』を紹介する。

グループの名前を冠したアルバムはウェザーには2枚あり、1枚目は1971年に出たファースト・アルバムである。
今日紹介する方は、区別のために『Weather Report (1982)』と年号をつけて呼ぶ。



なんとCDが一時的に絶版になっている。
もっとも、いつも紹介しているボックスセットに入っている。
真ん中に少し隠れて写っている、青い背景に赤い字が飛んでいるのがそうだ。



このアルバムを最後にジャコとピーター・アースキンが脱退する。

ジャコの脱退理由はなんだったのだろうか。
ロック・スターのように人気があったジャコをザヴィヌルは妬み、二人の電気楽器はどんどん競うようにヴォリュームを上げていって、最終的にウェザーのコンサートはものすごい爆音コンサートになったという話もある。
ザヴィヌルは前回『8:30』のときにも紹介したように「ジャコはアイディアが枯渇していた」と言っているので、解雇という形だったのだろうか。
最後の方ではジャコはステージの床に楽譜を並べて、それを見て演奏するのが常だったとも言う。
あるいはドラッグ中毒や心の病いにもう蝕まれていたのだろうか。
マイルスはザヴィヌルに「あんなジャンキーは雇うな」と忠告していたという話もある。
しかし、ジャコは脱退後ビッグバンドを率いて数々の傑作をものしているので、単にソロでやりたくなったというだけかもしれない。



いずれにしても、ジャコのザヴィヌルとの個性のぶつかり合い、奔放な生活とウェザーとの両立の難しさなども明らかにあったと思う。
というのは1982年のアルバム『Weather Report』が、実験音楽集と言いたくなるような雑然とした未整理な印象を受けるアルバムだからだ。

「Volcano For Fire」は、ザヴィヌルの音楽の分かりやすい面を生かしたポップな曲で「バードランド」「貴婦人の追跡」の路線の最終形とも言うべき作品だ。

「Current Affairs」は「お前のしるし」「ドリーム・クロック」に続くバラードで、ショーターの美しいサックスをザヴィヌルの分かりやすいメロディがうまく引き出している。後半のシンセソロもすばらしい。
「お前のしるし」「ドリーム・クロック」と比べると分かるのが録音の仕方がナウいというか新しいことだ。ショーターのサックスの音色をあえてハードに響かせているところが、80年代を感じる。
同じような曲をやっているからこそ、こういう違いが感じられて楽しい。

「NYC」は「41st Parallel」「The Dance」「Crazy About Jazz」の3部に分かれたジャズ・チューンで、ピーター・アースキンはブラシでプレイしている。
前作『ナイト・パッセージ』に収められた「Fast City」もニューヨークをテーマにして書かれた曲だが、それをもっと推し進めたような曲だ。
ピーターはストレートなジャズをプレイしたい、ウェスト・コーストを離れてニューヨークに行きたい、と思っていて、そうザヴィヌルに告げたそうだ。
最終的にはこれをザヴィヌルも了承し、ニューヨークのミュージシャンにピーターを紹介もしたそうだ。
もっとも、前回の『8:30』での演奏にダメ出しをされたことなども脱退の遠因になったような気がする。
また、金銭的にももっと優遇されたいと思っていたらしい。

ここまでの3曲、佳曲には違いないが、過去のウェザーの路線を推し進めただけのもので、アルバムごとにまったく違う音楽を作って驚かせるウェザー/ザヴィヌルのやり方からするといささか失速感がある。
特に「Crazy About Jazz」というストレートなタイトルはちょっと、ここまで脱ジャズ、変化球ジャズを模索してきたザヴィヌルにしては疑問符が付く。

「Dara Factor One」「When It Was Now」「Dara Factor Two」はバック・トラックにリズム・ボックス(ドラム・マシン)を使った作品だ。
今でこそ歌謡曲などはドラムを全部「打ち込み」でやるのが一般的だが、当時のリズム・ボックスは単純にビートを繰り返すだけの機械だった。
ザヴィヌルはリズム・ボックスを使うことでメンバーがより自由に演奏でき、新しい音楽が生まれるのを狙ったと発言している。
「Dara Factor One」「Two」は作曲のクレジットに全員の名前が入っていることからも分かるように、全員のセッションをそのまま演奏したと思しい。
この3曲こそこのアルバムの新しいものという感じだが、十分に完成させないで発表してしまった感じがする。

「Speechless」はジャコのベースをフィーチャーしたバラードで、悲しくも美しい。
ジャコのベースとザヴィヌルのシンセが荒涼とした空間の中で対話しているように感じる。
こんなに美しく歌うベースが、ジャコ以前にあっただろうか。
やはりジャコの脱退をザヴィヌルは惜しむ気持ちもあったのだろう。
この曲のセンチメンタルな美しさはそれを表しているようだ。

しかし、名伯楽ジョー・ザヴィヌルの勢いは止まらない。
次のアルバムでは、怪物ドラマー、オマー・ハキムが登場する。

なお、毎回書いているが、ウェザーのアルバムはセットで買うとお買い得である。





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