連載の第6回。
今回はアルバム『ブラック・マーケット』を紹介する。



ジャコが初参加したアルバムである。
ジャコ・パストリアス。
マイアミ出身のベース・プレイヤーで、ウェザー加入以前はマイアミの大学でベースを教えていたそうだ。
フレットレスのエレキ・ベースを弾く。

超絶的なテクニックのベーシストであるだけでなく、革新的なスタイルを持った音楽史上の巨人だ。
35歳の若さで夭逝したこともあって、伝説的な存在になっている。
盟友であったギタリストのパット・メセニーの言葉で「ジャコがもしいなかったら、今ある音楽は、まったく違うものになっているだろう。街に流れている音楽は、全然違うものになっていたはずだ」と言うものがある。
他にも、「ジャコと弾いていると、自分がすごくうまくなったような気がする。自分の音楽がどんどん良くなっていくのが感じられる」というミュージシャンの言葉もある。
多くのミュージシャンに愛されたミュージシャンである。

ウェザーとの出会いは、ザヴィヌルの楽屋にジャコがデモテープを持って推し掛けて「俺は世界最高のベーシストだ!」と言って、気分を害したザヴィヌルに「とっとと俺の前から消えうせろ!」と言われていったんは決別したという話があるが、本当だろうか。
もっとも、ジャコはウェザー加入前にパット・メセニーのアルバムに参加したり、ハービー・ハンコックやドン・アライアスを招いて歴史的なソロ・アルバム『ジャコ・パストリアスの肖像』を出したりしている。



デモテープを聴きなおしたザヴィヌルが電話で「君を気に入った。雇いたい。でも俺はエレキ・ベースを弾くやつを探してるんだ」と言い、ジャコが「俺はエレキ・ベースしか弾いたことがないよ」と言い返したという話もある。
エレキのフレットレス・ベースとウッド・ベースをザヴィヌルが聞き分けられなかったという話だが、これはウソだと思う。
というのは、ジャコの前任者のアルフォンソ・ジョンソンがすでにフレットレスのエレキ・ベースを弾いているからだ。

ジャズファンの話というのは怪しい話が多いので、注意が必要だ。

アルバム『ブラック・マーケット』用にザヴィヌルは「キャノンボール」という曲を書いた。
1975年に亡くなったキャノンボール・アダレイを追悼した作品だ。
この曲はいいよ。
追悼と言ってもあざとい感じではなくサラッとしたハッピーな曲だ。
途中の、ショーターのサックスが入る部分と、末尾が、キャノンボールの魂が天国へ昇って行くのを表現していると聴いて、そういえばそうかーと思うぐらい。
さりげなくてオシャレな追悼だ。
ぼくもお葬式にはこんな楽しい曲を流して欲しい。

マイアミ出身だったキャノンボールを偲ぶこの曲のベースを弾いてもらうために、ザヴィヌルはジャコを呼んだとか。
ジャコはここぞとばかりにいろいろな技を繰り出そうとしたが、ザヴィヌルに「この曲はそういうのはいらない、やめろ」と言ったとか。
いろいろな話がある。
ホントカヨー

ジャコが参加したのは「キャノンボール」の他にジャコ自身のペンによる「バーバリー・コースト」の2曲だ。
前任者のアルフォンソも「ヘランドヌ」という曲を書いていて、これもウェザーらしいミステリアスな曲でなかなかいい。

タイトル曲の「ブラック・マーケット」はザヴィヌルが生涯で一番好きな曲とインタビューで応えていたこともある。
中国の市場を題材にした曲らしく、爆竹の音も入っている。
この曲がYMOバージョンの「ファイアー・クラッカー」に良く似ている。
この当時のウェザーやハービー・ハンコックにYMOや坂本龍一は影響を受けていたらしく、聞き比べると楽しい。

他に「エレガント・ピープル」という曲も有名だ。
これはジャコ加入当時のライブ演奏が映像に残っている。
いくつかバージョンがあるが、ボックス『Forecast: Tomorrow』のDVD1曲目に入っているのがすばらしい。



最初、ふらふらーと普通の格好をしたオッサンたちが出てきて、リハーサルでもするのかなと思っていたらいきなり演奏に入る。
このさりげなさがカッコ良すぎる。
「エレガント・ピープル」はのちの演奏では後半だけをやることが多いのだが、長いイントロから聴いたほうが絶対楽しい。
後半は夜っぽい曲だが、前半は夕方っぽい感じがする。

(上のボックスセットは年代別のベスト盤だから買わなくてもいいようなものだが、各メンバーのソロ曲も入っていてお買い得だ。)

ということで、ジャコ大爆発前夜の『ブラック・マーケット』だが、これも名盤である。
でも毎回言っているが、5枚組セットを買った方が絶対オトク。





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